戸板康二『グリーン車の子供』創元推理文庫

 問題というほど問題でもないのですが気にかかっていることがあります。アニメや洋画の吹き替えで少年役の声を女性の声優が演じることはあっても、逆に少女役の声優が男性であることは滅多にない。そこに少年・少女に対するイメージが表れているような気がする。いや、逆かもしれない。(大人の)女性声優が少年の声をあてることと(大人の)男性声優が少女の声をあてることに非対称性があるとしたら、それは少年・少女ではなく男性・女性にまつわるイメージについて何かを示しているのかもしれません。

 「雅楽の目から見れば、その通りかもしれない。しかし、そんなことをいったら、今の子役は、みんな落第だ。」(「グリーン車の子供」p.580)

 『グリーン車の子供』は歌舞伎俳優である中村雅楽を探偵役に解かれる謎を新聞記者、竹野の視点で描いた短編集です。

 表題作「グリーン車の子供」で雅楽と竹野は新幹線に搭乗します。道中、東京へと向かう女の子が乗り合わせます。ひとりで送り出すことに不安があった女の子のお祖父さんから面倒をみてほしいと頼まれた2人ですが、というのがあらすじです。

 この「グリーン車の子供」は読んでいて、何が謎なのか最後まで分からないお話でした。日本のミステリを紹介した本で触れられていたのがきっかけでこの本を読んでおり、「中村雅楽探偵全集」と銘打たれたシリーズの中の1編で題名が題名なので、子供が謎なのだろうな、と思いながら読んでいるのですが、仕組んだ側がタネあかしをする前に「探偵」が解く必要がある、という意味での「謎」は何なのだろうと思いながら読んでいました。

 ポイントは行程における雅楽の変化だと思うのですが、彼の心境の変化を考えたときに別の話数のことが気になってきました。

 「能の世界の人でなければ、わからない感じですね」(「美少年の死」p.322)

 ベッド・ミドラーという人にThe Roseという歌があるはずです。といっても私が知っているのはアニメ映画『おもひでぽろぽろ』で使われていた邦訳ヴァージョンですが、「美少年の死」での犯人の動機を読んだ時に頭の中をその歌が流れていました。

 「役者はおかしいもので、舞台へ出ている時のわが身は、わが身でない。それは、見物の前に別な人格になって、捧げられている特殊の存在のわけである。」(「八人目の寺子」p.361)

 中村雅楽の日常である古典芸能の世界では、子供・子役という存在はどう捉えられているのでしょうか。「美少年の死」の動機を捕捉できたからには、犯人と同じように理解ができるということでもある。

 「われわれのあいだでは、あの子は実子かという質問は、禁句なんだ」(「妹の縁談」p.628)

 世間一般と中村雅楽が含まれる「われわれのあいだ」がどれほど違っているかは分かりません。でも、「子供」と言ったときにその中に何を見ているのだろう、というのがこの本を読みながら一番考えたことでした。