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施川ユウキ『バーナード嬢曰く。』2巻 一迅社

 「まだ一冊も/読んでないよ」(p.9)

 本を読まずにお手軽に読書家を気どって発言してみたい、読書家に周りから見られたい女、バーナード嬢(本名:町田さわ子)。『読んでいない本について堂々と語る方法』(ピエール・バイヤール、筑摩書房)を地で行くかのような彼女とその友人たちが織りなす読書家あるあるなコミック第2巻。表紙には作中から村上春樹を使ったネタが採られています。

 「村上春樹をどーいうスタンスで読んだらいいか/正解がわかったよ!!」

 正直に言って、私は村上春樹さんのあの超絶人気っぷりが分かりません。最初に読んだのが『レキシントンの幽霊』でイマイチ内容が分からず、その印象に引きずられたままなのかもしれませんけれども。

 「そのさびしさでおまへは音をつくるのだ」(p.23)

 宮澤賢治をネタにしている回もあり、欄外の著者コラムのようなページで彼の「告別」という詩が引用されています(上に部分的に抜書きしました)。私の「村上春樹」というイメージの中には、『ノルウェイの森』に出てくる自殺してしまう人々が大きな位置を占めていて、その首つりのイメージに引っ張られたのだと思いますが、上に引用した「告別」の部分を「そのさびしさでおまへは首をつるのだ」と見間違えてしまい、教師を辞するにあたり、生徒へ向けた詩としては一歩間違えば『いまを生きる』の死せる詩人の会のような働きをしてしまうもののように思いました。

 また、読書が最もはかどる場所として挙げられている場所。『国家の罠』の佐藤優さんも、「そこ」で本をたくさん読んだだろうし、ある元IT社長も「そこ」の特徴に言及した『ネットにつながらなかったので仕方なく本を1000冊読んで考えた そしたら意外に役立った』(角川書店刊)という題名の本を上梓してもいます。

 で、いろいろ探していたら、佐藤優さんがそのものズバリの題名で書かれていました。『獄中記』(岩波現代文庫刊)。くだんの元IT社長の『刑務所わず。』でもいいのですけれども。

 このマンガを読んでいて面白いのは、友人と本について話しているような気がしてくることです。今まで題名は知っていたけれど、あらすじを知らなかった本に対する印象が変わることもある。

 伊藤計劃さんの絶筆を円城塔さんが完成させた『屍者の帝国』。

 「フランケンシュタインによる死体蘇生術が普及した19世紀の世界が舞台」(p.54)

 舞台設定を書いたこんな一文からでも、連想が広がっていきます。メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』でフランケンシュタインが成功したのは、死体蘇生だったのだろうか。また、彼がお話の終盤、船の船長に託した教訓はそういった蘇生術が普及した社会を望んだだろうか。そう考えると、フランケンシュタインの考えを再考するとともに、自身が望まなかった未来が自分の造ったものによって到来してしまうことの意味を知りたくて『屍者の帝国』も読みたくなってきます。

 あるいは、プルーストの『失われた時を求めて』。長編であることがネタにされていますが、ちょうど最近、新潮社から1冊で全て読めると謳った抄訳版?が出ていることを思い出します。

 「誰かに怒られるぞ」(p.22)

 バーナード嬢の本へのスタンスはガチの本読みからすれば噴飯ものかもしれないのですが、でも、私は彼女の態度はそれはそれでいいのだと思います。作中、登場する「ガチの本読み」も言っています。

 「世の中には、/知っているのに/知らないフリをして/他人を試したりする/物知りで頭のいい人が/います。/そういう人間と/比べたら/私は町田さわ子の/ほうが好きです。」(p.84)

 連載中、とのことですが、次巻は出るのでしょうか。出るとしたら首を長くして待ちたいと思います。