読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

港千尋『文字の母たち』インスクリプト

 「写真の技術が母型システムに取って代わったのは、言うまでもなくはるかに効率がいいからであるが、そのときに失われたのは母型だけでなく、字を彫刻する身体感覚、そしてやり直しがきかないという物質を相手にした『真剣勝負』であろう。」(p.84)

 活字の型をとるには以下の手順を踏むそうです。まず、地を彫刻しそれを銅版に打ち込みます。その際できる凹みに鉛を流し込んで活字をつくります。その凹みのことを母型というそうです。

 『文字の母たち』という題名を見たとき、勝手に印刷工場で働く女性たちについて書かれた本だと思いました。でも、この題名は印刷所に保管されているたくさんの母型のことを意味しているのだと思います。

 この本には閉鎖間際のフランス国立印刷所で撮影された写真が収められています。そして写真の合間には印刷や職人についての文章が書かれています。

 それぞれの写真には特別説明が書かれていません。本文中からなんとなく分かる写真もあれば、分からないものもある。ただ、彫る際につかう刃物、切られる相手である木材、溶かされた金属から感じる熱といったものから印刷の現場は物質によっているという印象を強くします。

 情報やコンテンツといった言葉を使うことで書物が抽象的なものであるかのように認識していますが、それが人の手を経た上で存在する具体的な「モノ」であることを再認識させてくれる本です。