麻生みこと『海月と私』3巻 講談社

 『海月と私』は小さな旅館を舞台にしたマンガです。確かな腕を持つ料理人が営む宿に突如現れた正体不明の美人仲居。その料理人・仲居コンビと宿泊客の交差が描かれます。と書くとお昼の連続ドラマにありそうな設定に聞こえます。実際、読みながら加藤貴子さん主演の「温泉へ行こう」シリーズや中原果南さんの「はるちゃん」シリーズをちょっとだけ思い出します。

 この巻での宿泊客に親子関係がうまくいっていない母娘が登場します。

 「お母さんの子なのは変わんないから どこ行ったって」

 確執は親離れが原因のようでした。

 柴田淳さんに「一人暮らし」という歌があります。次のような一節があります。

 「あなたのいる場所は 私がうまれたところ」

 このマンガを読んでいると色々な歌が頭に浮かんできます。

 「海の音のせいかな」

 不倫相手の薄っぺらさに気づいた女性客は海の音に包まれて寝過ごしてしまいます。「海を見ていた」。池田綾子さんにそういう題名の歌があります。

 マンガや小説を読んでいて、自分はどうしてこれが好きなのだろうと考えます。好きだと自覚がなくても、読みつづけてしまうものがあると、それはどうしてだろうと考えます。

 読みながら、自分が知っている歌、好きな歌が自然と自分の中で再生されるようなお話が好きなのかもしれない。そして、

 「この宿の主人なんて具のない味噌汁一つで俺の人生を豊かにできるのに」

 料理や食事をきちんと作ることがおいしさにつながり、それが人にいい影響を与える、そんな「まっとうさ」とでも言えるような芯の通っている設定が好きだから、『海月と私』のことも好きなのだろうと思います。

 しじみの味噌汁を徹夜明けに飲むときのしみじみ染みていく感覚。このマンガを読みながらそれに似たものを感じているように思います。