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若竹七海『さよならの手口』文春文庫

 葉村晶という女性探偵が登場するシリーズの最新作、といっても前回の『悪いうさぎ』から13年ぶりということで葉村晶も不惑を越えていました。

 「無責任を感じよくご呈示する社会。ときどき、暴れたくなる。」(p.58)

 『依頼人は死んだ』を読んだ時は、個別具体的な人物と対決しているものの、実際に葉村が対峙していたのは、その具象の奥にある抽象的な「悪」とでも言うべきものという印象を受けていました。終盤、その「悪」自体が象られたものから直接の攻撃を受けてもいましたが、彼女の敵は個人という手段を使ってくる抽象的なもののように感じられました。

 「まだ生きている人間の遺品整理の心配をしていいのは、本人だけだ。」(p.273)

 『さよならの手口』でも変わらずカッコイイ葉村ですが、歳を重ねたせいかコミカルさが増しているような印象を受けました。『悪いうさぎ』で敵に監禁された際、弱音を吐き屈してしまいそうなる場面もあったけれども、『さよならの手口』を読んでいて率直に言って、こんな人だったっけ?という印象も受けていました。ただ、それは探偵を休業し古書店でアルバイトをしているという状況のせいかもしれません。

 病院に搬送され入院し退院後も服薬しながらも調査を進める姿は、体のリハビリとともに探偵としてのリハビリをしているようにも読めます。特に制度の変更で公安に届け出してなければ探偵を合法的にできないという設定部分が、彼女が何であるかというゆらぎと重なります。

 読み終わって思うのは、『さよならの手口』は1冊をかけて葉村晶が自分が探偵であることを思い出すための本だったのではないのかな、ということでした。40歳を越えると本当に惑わないようになるのでしょうか。

 「だって葉村さん、探偵じゃないですか」(p.413)