青柳碧人『浜村渚の計算ノート 5さつめ:鳴くよウグイス、平面上』講談社文庫

 「数学に真剣に向き合って出された解答はみんな『キレイな解答』だと私は思うんです。数学が本当に好きな人は、他の人が一生懸命考えて出した答えを、『汚い解答』だなんて、絶対に言っちゃいけないと思うんです」(p.99)

 もうこのシリーズは浜村渚の名言を聞くために読んでいる様相を呈してきました。

 「難問と、面白い解法。これがあったらやっぱりその空間は『授業』なのだろう。」(p.148)

 「数学を教える者にとって一番の喜びは、教え子が旅立ち、師である自分をも超え、新たな世界を広げていくことに他ならない。」(p.165)

 そして、著者である青柳さんの考えも反映されているであろう、教育の在り方。

 この本のいいところは、お話を読みながら「いい教育」とは何かを考えさせるようでありながら、教育の可能性を否定しないながらも、本当に大切なものは統制の手をすり抜けていく、抵抗する術は個人に最後まで残されている、ということを静かに告げている点のような気がします。

 浜村渚が数学を好きなのは、そう教育されたからではない。数学テロリストの目的が達せられようがされまいが彼女は数学を続けていくでしょう。数学テロリストが達したいものが既に一人の少女という形で具現化されている。だからこそ、テロリストたちも彼女に感化されて、数学が好きな自分へと戻っていけるのだと思います。

 「そこにはもう、数学テロリストの面影はなかった。情熱的な、ただ一人の数学教師の横顔があった。」(p.166)

 それは数学に限らないと思います。学生の頃は、何の役に立つのかとか、受験に関係ないから大事じゃないとか、いやいやそんな考えは間違っているとか、とかく考えがちです。そして自分がそれを好きなのか、自分はそれをしたいのか、ということは忘れてしまう。なんだか、熊木杏里さんの『最後の羅針盤』という歌の事を思い出してしまいました。

 

以下、各お話の題名と覚書です。

log10.「遊星よりの問題X」

 レーナード・M・ワプナー『バナッハ=タルスキの逆説』青土社

 砂田利一『新版 バナッハ・タルスキーのパラドックス』岩波科学ライブラリー

 スーザン・A・クランシー『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』ハヤカワ文庫

 ブルース・シェクター、グラベルロード『My Brain is Open:20世紀数学界の異才ポール・エルデシュ放浪記』共立出版

 矢野健太郎『エレガントな解答』ちくま学芸文庫

log100.「鳩の巣が足りなくても」

 トム・クランシーレッド・オクトーバーを追え』上・下 文春文庫

 森博嗣黒猫の三角講談社文庫

 カール・サバー『リーマン博士の大予想』紀伊國屋書店

log1000.「パップス・ギュルダン荘の秘密」

 エラリー・クイーン『シャム双子の謎』創元推理文庫

log10000.「京都、別れの二次関数」

 円居挽『丸太町ルヴォワール』講談社文庫

 石村貞夫・石村園子『増補版 金融・証券のためのブラック・ショールズ微分方程式』東京図書

エピローグ「宿題の答え、そして」

 坂口恭平『独立国家のつくりかた』講談社現代新書

 サイマル・カーン『世界はひとつの教室』ダイヤモンド社