石持浅海『月の扉』光文社文庫

 「すまないが、この事件の真相を調べて、わかったら教えてくれないか」(p.98)

 不登校の子どもを対象とするキャンプを主催する団体は中心人物を逮捕されてしまいます。その人物を奪還すべく団体関係者3名が採った手段が飛行機のハイジャック。秘密裡に武器を機内に持ち込み乗客を人質とするところまでは計画通りに事を運んだ彼らですが、想定外の事態が発生します。人質の一人が室内のトイレで死体となって発見されたのです。犯人は誰なのか。

 「我々は今、ハイジャックで忙しい」(p.94)

 本筋で忙しい彼らは、その死亡事件の真相解明を同じく人質=乗客である男性に「外注」します。件の人物を警察から取り返すことはできるのか。そして、想定外の死体の真実は何なのか。2つの流れが並行してお話は進行していきます。

 「他人からの悪意に耐えられるということは、他人への悪意を持つことができるということなんだ。」(pp.313-4)

 死体事件を単体で見た場合、動機の説得力は弱いかもしれません。でも、ハイジャック犯の動機を共有していった末に明かされたそれは、登場人物たちにとっての真実として説得力のあるものだと感じました。

 「俺がこれから話すのは、真相とは限らないぞ。あくまで『あんたたちにとっての真実』に過ぎない。」(p.289)

 むしろ、ハイジャックの動機に共感できなければ、死体事件の「動機」は理解できないのかもしれない。そして、それは後半部分の展開に説得力を感じるかどうかの試金石ともなるように思います。

 ただ、ハイジャックの動機に関して私は共感できるけれど、自分はそういった種類のものは自分のものとして抱かないように思います。だから、読み終わって題名を振り返ってみて、扉を開いて扉の向こうへ一旦出てしまえば、今度は元居た場所が扉の向こう側になっている、という言葉遊びのようなことを考えてしまうのだと思います。