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青柳碧人『浜村渚の計算ノート 3と1/2さつめ:ふえるま島の最終定理』講談社文庫

 「果たして、数学が義務教育に組み込まれて『勉強』だったころ、こういう風に数学を捉えることのできた子どもが、どれだけいたのだろう。こういう風に数学を子どもに伝えられた大人が、どれだけいたのだろう。」(p.131)

 このシリーズの魅力のひとつは作品から窺われる青柳さんの(数学)教育へ対する思いや考え方だと思います。作中のそれが著者自身のものと違っているという可能性はありますが、各巻の「あとがき」で書かれていることから考えるに、作中に反映されていると思います。

 このシリーズを読んで数学に魅せられている登場人物たちに触れていると、もっと数学を真面目に勉強しておけば良かった、という後悔にさいなまれます。でも、冷静になって、当時真面目じゃなかったのかと考えてみると、それなりに真面目に勉強していた気はする。「勉強」だったからいけなかったのでしょうか。

 「勉強してたんじゃなくって、数学、してたんです」(p.130)

 そういえば、本を読んでいると「勉強しているの?」と聞かれることがたまにある。そんなとき、本を読んでいるだけなんだけどな、と何気なく考えています。数学は好きになれなかったけれど、自分には本がある、ということなのかな。

 そして、このシリーズのもうひとつにしておそらく最大の魅力は主人公の数学への愛です。

 「誰が何と言おうと、正しいんです。悲しいときも、私が何かにムカついているときも、ちゃんと正しくそこにいてくれてるんです。すごく優しいんですよ数学って」(p.147)

 変動してしまう自分があるときに、変わらないものがそこに存在してくれるのは安心できることかもしれない。

 「論理的に物事を考えることを、あなたたちは裏切ることができない」(p.274)

 時に融通が利かず自分を追い込むことがあるとしても。

 「数学の問題に取り組むのに、恋愛感情は必要ない」(p.198)

 そんな相手に向き合って付き合い続けていけるのは、愛、というものの一種を持っているからなんじゃないのかな、と思います。

 「数学も、浜村渚を愛していてほしい。」(p.148)

 

以下、覚書です。

 サイモン・シンフェルマーの最終定理新潮文庫

 結城浩数学ガール フェルマーの最終定理ソフトバンククリエイティブ

 マリオ・リヴィオ『なぜこの方程式は解けないか?』早川書房

 岡嶋二人クラインの壺新潮文庫

 浅田彰『構造と力』勁草書房

 クリフォード・A・ピックオーバー『メビウスの帯日経BP

 ラッセル・ショート『デカルトの骨』青土社

 石井俊全『ガロア理論の頂を踏む』ベレ出版

 リリアン・リーバー『ガロア群論みすず書房

 『ユークリッド原論 追補版』共立出版