千街晶之『読み出したら止まらない!国内ミステリーマストリード100』日経文芸文庫

 この本を読もうと思ったのは、日本のミステリについてあまり知らなかったためです。有名どころは知っておきたいという気持ちがありました。

 必読書100、とのことですが、文春文庫の『東西ミステリーベスト100』で50位以内に入ったものは殿堂入りとみなして外してあるそうです。あと、このミスや文春の毎年のベストで5位以内のものも外されているそうです。

 紹介されていた本の大半が知らないものだったのですが、題名を知っていてもミステリだとは知らなかったり、読んだことがあってもミステリだとは思っていなかったものもいくつかありました。前者としては松井今朝子さんの『吉原手引草』がそうで、後者としては伊藤計劃さんの『虐殺器官』がそうでした。

 もっとも意外だったのは、東川篤哉さんの『謎解きはディナーのあとで』が紹介されていたことで、本屋大賞を受賞したときの賛否両論のイメージから、なんとなくこういった必読書には挙げられないような気がしていました。また、三上延さんの『ビブリア古書堂の事件帖4』が取りあげられているのも意外な感じがしました。

 そうは言っても、紹介されている本のどれもこれも読みたくなってきます。それは千街さんがどの本についてもいい部分をちゃんと紹介しているからだと思います。

 むかし、淀川長治さんが自分の過去を振り返るTV番組の中でこんなことを言っていました。映画を観にいって帰ってくると母親からどこが面白かったのか聞かれる。面白かったところ、良かったところを必死に考えて必ず言えるようにしていた。何故かというと、悪い点を言ってしまったり、面白くなかったと言ってしまうと、そんなものなら観にいかなくていいということになり、映画を観にいけなくなるから。淀川さんはTVで映画番組の解説も長くされていました。水野晴郎さんは別れ際の「いやぁ、映画ってほんとうにいいものですね。」が印象深いですが、本編が始まる前の淀川さんの解説を聞いていると、たまにそこしか褒めるところがないのだろうか、と考えることもあったりして、でも、上に書いた子どもの頃のエピソードを知ると、きちんとした理由があってのことだったんだな、と思いました。

 確かに悪い点を列挙されても、それを観たいとは思わないし、そういったことが続くと映画全般が面白くないもの、良くないものというイメージを持ってしまうかもしれない。

 それは本についても同じで、この本では紹介されている本のいい部分に触れているけれど、実際に読んでみたら悪い部分の方が気になって期待ほどではないこともあるかもしれない。でも、どの本も読んでみたくなったということは、自分にとっていい紹介ばかりだったんだな、と思います。