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島田潤一郎『あしたから出版社』晶文社

 「本当は就職をしたかったのだ。」(p.10)

 この本は「就職しないで生きるには21」というシリーズの1冊です。

 島田潤一郎さんは就活などを経て正社員になるという「就職」をせずに小説家を目指していたそうです。でも、夢破れてひとりで夏葉社という出版社を起こしました。

 「決心さえすれば、だれでも、あしたから、あたらしい肩書きくらいはつけることができる。」(p.13)

 私が夏葉社という出版社を知ったのは多分、『昔日の客』という本を知った流れの中でだと思います。

 『昔日の客』は関口良雄さんという古書店の店主が書かれた随筆集で、業界では名著として有名だったそうです。でも、手に入りにくい状況が続いていた。誰か復刊してくれれば。そんな中、手を挙げたのが夏葉社の島田さんでした。どの本での描写だったか記憶があいまいなのですが、復刊に踏み切るその姿が骨があるものに感じられて夏葉社という出版社自体にも興味がありました。

 「たとえ全然売れなくても、自分にとって、意味のある本だけを出版すべきなのだ。」(p.89)

 「ぼくは、いつか、袋小路に入り込んで、だれもほしいと思わない本をつくってしまうような気がしている。」(p.176)

 こういった言葉だけを引いてくると、理想主義的な印象を与えるかもしれません。採算はどうするの、という批判も招くかもしれない。

 夏葉社が最初に販売したのは『レンブラントの帽子』という本でした。本当に最初に作りたかった本は別にあったけれど、完成せず、世に出る順番として『レンブラントの帽子』が先になったようです。

 売るためにつくる、儲けるためにつくる、という方針を取らない以上、長く売れるものを作らなければならない。それは必然的に質の高いものでなければならなくなる。質が高いかどうかを見極めるには能力がいる。

 島田さんは作家を目指す中で相当数の本を読んでいたようです。読んだ本の量がそういった能力に相関するのか、正直言って分かりません。でも、少なくともこの本を読んでいる限り、島田さんも本に詳しい側の人だ、という印象を受けます。古書店関連の本を読んでいて、その店主さんたちから感じられるのと似たような雰囲気を感じます。

 一過性ではなく、長く人に求められるものを作るには、それが何なのか分からなければならない。夏葉社が出版する本は質で選んでいる、そう感じる本でした。

 

 以下は覚書のようなものですが、島田さんは東日本大震災を受けて本の価値を疑ったそうです。

 「ただの趣味の世界じゃないか。ぼく自身が思うというようりも、社会全体が、そういっているような気がした。」(p.153)

 確かに、そう感じる気持ちは分かります。面と向かってこのような批判を受ければ、違うときっぱり否定することもできない気がします。でも、本に価値が無いとはどうしても思えません。『走れ!移動図書館』という本を読んだりすると、なおさらそう思います。思うだけで、明確に言葉で反論することはできないのですけれど。