青柳碧人『ヘンたて:幹館大学ヘンな建物研究会』ハヤカワ文庫

 この本を読もうと思ったのは、どこかで変な建物を研究する大学サークルを中心としたミステリの短編集、みたいな紹介を読んで興味を持っていたためです。

 変な建物と言えば、建築案内の本でそれっぽいものがいくつも出ていますし、三才ブックスの『ワンダーJAPAN』もその系列に並ぶものでしょうか。実際に私が『ヘンたて』のことを知って連想したのは、初野晴さんの『空想オルガン』所収のある話数のことでしたが。

 お話の流れとしては、各話数でヘンな建物を訪ねるサークル一同が謎に巻き込まれたり、謎を自作したりして、それを解く、という展開になっています。ミステリとしての質をあーだこーだ言える力はないのでよく分からないのですが、何となく「ぬるい」ミステリのような気がします。

 「『ファミリー向けの殺人事件』なんて、果たしてあるんでしょうか?」(p.321

 読んでみて自分に起こった変化は次の3点です。

 まず、このサークルのメンツがよく行く「居酒屋」は『ローマの平日』という名前で、例の映画で有名なスペイン広場を模した造りになっています。そんな広場のような居酒屋(?)があれば、言ってみたいな、と思いました。私のイメージの中では、レジャーランドなどでよくあるイベント広場でヒーローショーが始まる前の客席や段上の席にまだ人がまばらな状態、そんな中でまったりできるような気がします。お酒も飲めないのに。

 次に、カルーアミルクというお酒を飲んでみようかな、という気になりました。お酒も飲めないのに。

 そして3点目。ハットトリック、ではなくて。

 「トマソンっていうんだ」(p.17)

 意味もないのにある建造物のことをトマソンというそうです。降りる階段もベランダもなく、絶壁なのに2階についている出入り口とかはその例でしょうか(豪雪地帯だったら、意味はありますけれども)。そのトマソンを自分がとても好きそうだと気づきました。

 中には単純に無意味なものもあるのかもしれない。でも、もしかしたら、かつてはあった何かが無くなったためにそれが無意味に見えるようになったのかもしれない。だとしたら、トマソンは今はもうない過去を静かに語っているように感じられます。またまた感傷的ですが、きっとそういうものが好きなんだろうなと思います。

 なくなるのは物理的なものでなくてもいい。信仰や思想がなくなってしまった今からみたらそれが「無意味」に見えるトマソンだってあるのかもしれない。

 まとめれば、この本の感想は次の1文になります。

 こんにちはトマソン。(梶尾真治っぽく・・・・)