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中村尚儁 『1/11』9巻 集英社

マンガの感想

 「そしていつか・・・母さんみたいな 強い人間になりたい」

 『ヴァンドレッド』というアニメが昔、ありました。その中で撃墜された戦闘機のパイロットが生死の境をさまようという話数があります。意識混濁の中で彼女の子ども時代が回想されていきます。その過去に登場するパイロットの母が次のようなセリフを言っているシーンがありました。「ファーマ(注:お話の設定上、母親のような関係の名称です)は弱い人間だからあなたやオーマ(注:同じく父親のような関係)のように外に出ていくことはできないの」。だから、彼女たちが帰ってくる家を守ることしかできない、そう続いていたと記憶しています。

 消極的にも見える母にイラつきを感じたりもしていたパイロットですが、実は気づいています。父が犯したスキャンダルにも折れずに自分を気にかけてくれていた彼女こそ強い人であったといことを。

 冒頭に引用したのは、『1/11』の主人公だったサッカー選手の息子が言ったセリフです。その直前にはこう述べています。

 「頑張って父さんみたいなプロのサッカー選手になりたいんだ」

 有名な人というのは、何かがあったとき自身のみならずその血縁も中傷を受けてしまうものなのかもしれない。成績が振るわなければ、内助の功がうんぬんと妻を責め、上手くなければ、彼の子どものくせにと息子を責める。

 息子が父のようになりたい、というのは分かりやすいです。でも、異性である母のようにもなりたいという言葉は彼女にどう響いたのでしょうか。大人の背を見て子どもは育つといいます。この巻は最終巻でしたが、子どもだけではなく、主人公の後輩たちもピッチ上の彼の姿を見て、背中を見て多くを学んでいました。

 認められたくてそうしてきたわけではないのだけれど、頑張ってきた人の生き方がその人にとって大切な人たちにちゃんと伝わるということの素晴らしさを感じるお話でした。