佐々涼子『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている:再生・日本製紙石巻工場』早川書房

 「だが、読者は誰が紙を作っているかを知らない。」(p.242)

 2011年3月11日、とても大きな地震が起こりました。その後の報道の中でとても印象に残っている画像がありました。無残に破壊され尽くしたかのように見える製紙工場の写真です。その写真を目にした日も、きっと私は本を読んでいました。もしかしたら、書店でいくつかの本に触れた日だったかもしれません。その時に思ったのは、素朴にこんなことでした。紙を造っている現場がこの状態だとしたら、今手にしている本を構成している紙はどこから来ているのか。どんな手を使って維持されているのか。

 確かに、物流の滞りなどであの頃は書店の店頭に新刊が並ぶタイミングにバラつきが出ていました。入荷のある日とない日がサイクルされていた、とも聞きます。でも、これは印象に過ぎませんが、本の値段が上がったという感覚はありませんでした。

 あの時の印象、そしてそれ以後も本が変わらず流通しているという感覚。そこにはきっと復旧があったはず。その詳細を知りたくてこの本を読むことにしました。

 鎌倉幸子さんに『走れ!移動図書館』という著書があります。東日本大震災被災地域へ移動図書館(BM)を走らせるプロジェクトを描いた本です。そこに「今はまだ本ではないのではないか」と逡巡する鎌倉さんの姿がありました。

 日本製紙という会社には野球部があるそうです。未曽有の大震災の中、必需ではない(かのような)野球部の存続も『紙をつなげ!』の一つのテーマとなっています。製紙会社の内部では、業績から考えたらコストでしかないものの存続の話ですが、広く社会の中の製紙会社と考えると「今はまだ本ではないのではないか」という種類の考えが向けられることもありそうな気がします。

 「東北の新聞社に紙を供給しているのは、主に仙台の南に位置する岩沼工場であった。」(p.87)

 新聞社の被災時の奮闘を記した『河北新報のいちばん長い日』という本もあります。そこで描かれていたのは、非常時にあって、普通に新聞を読者に届けようとする編集・制作、そして販売員の姿でした。

 また、震災と言えば、福島の原発でも最悪の状況を回避しようという動きがあったはずです。

 紙を造ること、新聞を届けること、メルトダウンを回避すること、他にもいろいろなことがあって、そのそれぞれで対応した人がいたと思います。

 「いろいろ、あるんですよ」

 「いろいろありますね」(p.266)

 佐々さんと自身も被災された運転手さんの会話の一部です。

 「いろいろ」という4文字の中身は人によって変わると思います。

 再生した工場が造る紙からできる本にも様々な内容が載るのかもしれません。

 重要度にはもしかたら軽重があるのかもしれないし、美談では済ませられない部分がこの本で触れられていた以上にあったのかもしれない。

 本を読む人にとって、知っておいた方がいい「いろいろ」の中身がこの本には書かれていたと思います。

 「紙に生産者のサインはない。彼らにとっては品質こそが、何より雄弁なサインであり、彼らの存在証明なのである。」(p.4)