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宮部みゆき『名もなき毒』文春文庫

 「広い世間には、我々の常識の範囲内では理解できない思考を持ち、その思考に沿った行動をとる人物が、我々が漠然と予想しているよりもはるかに大勢いる。」(p.65)

 毒、というのはどちらなのでしょう。その常識では理解できない範疇にいる人物のことを指すのか、あるいは、その人物をそうならしめているものの方なのか。

 「どういう人間なのだろう」「気に入らない人間に毒を盛ろうとする―それをやってのける人間さ」(p.317)

 逸脱行為に走る人間を類型化し、そこからこぼれる人間は安心だと思い込めればどんなにか簡単でしょう。

 でも、人は簡単には見抜けないのかもしれません。

 「君ら、優しすぎたんだ。だから舐められた」(p.75)

 まさか、と思うこともある。

 「生まれついての嘘つき。そんな人間がいるのか。」(p.349)

 そういう存在はあるかもしれない、でも日頃は自分の身近に実際にソレが存在する可能性を低く見積もっている。だからこそ、現に遭遇した時、自分が動揺していることに心が認識が追いついていかない。

 「『あなたは大丈夫ですか』と、私は尋ねた。」「『何がどう大丈夫なんです?』」(p.583)

 名前を知らなくとも、それが毒だということはとっくに知っているはずなのに。