田中美穂『わたしの小さな古本屋』洋泉社

たしか、岡崎武志さんの『女子の古本屋』に田中美穂さんが営む蟲文庫にページを割いた箇所がありました。
「より先へ、より前へという世のなかの風潮が性に合わないという人は、どんな時代にも変わりなくいるはずです。」(p.108)
古本、と言えば一度誰かの手に渡ったものです。人から人へ。手を経由する数だけ本に含まれる情報が伝達するのに時間がかかる。世の中の風潮が性に合わない、そう感じたり思ったりしているから古本に興味をひかれるのかもしれません。一方で、ゆっくりしていて生活していけるのか、という疑問がどこかで囁き続けます。
『女子の古本屋』を読んだときの印象では、田中さんは組合にも入らず、商う品はほとんど自分の蔵書だけ、全然動かずコタツに入っているだけ、というものでした。
でも、今回この本を読んで、店舗の移転もしているし、家賃を払うために郵便局でパートタイマーをしていたことなどを知って、いろいろと考えました。
この本の副題は「倉敷蟲文庫』に流れるやさしい時間」となっています。自分で「やさしい時間」まで言っちゃいますか、とともすれば思ってしまうのですが、見かけの「やさしい時間」はその裏で、というよりもその外側でしっかりしたもの、語弊を恐れずに言えば「やさしくない」ものに支えられていてこそのものではないのかな、と感じます。
もしも、そのことを抜きにして「やさしい」部分だけに憧れを感じてしまうのは危険なことだな、と自戒を込めながら読みました。
「感激はロマンチズムであり、儲けはリアリズムである。」(関口良雄『昔日の客』夏葉社 p.26)