マックス・ピカート『沈黙の世界』みすず書房

言いたいことは 特にない
熱い思いは 特にない
だからわたしに何も望まないで (大木彩乃「自由なことば」)

「それでは君はどうしたいのですか?」と問われて「黙りたいです」と答えたのは卒業論文の口頭試問の席でした。
「言葉はその構造そのものによって既に、人間に真理をもたらすのだ。」(p.29)
仮に「真理は相対的なものである」と主張したいとして、それを言葉にしてしまったら、「真理は相対的なものである」は真理であると言語遂行的に主張していることになりはしないか。
「言葉はもはや沈黙から生まれるのではなく、何か他の一つの言葉から、いや、他の言葉の騒音から生ずる」(p.202)
言葉にすることが他の言葉への言及や引用を含み、その他の言葉を反射増幅させているだけ、何かを言っているようでいながら何も言っていない、ただ何事かに関する言説を膨張させているだけに感じられて嫌気をさしているとしたら、それへの反抗は発言ではなく沈黙になるのではないか。
そんな考えがあったのかなかったのか分かりません。ただ、「黙りたいです」と言葉にしてしまったのは事実で、そこで何も言わずに黙っていることはできませんでした。以来、沈黙にはとても興味があります。
この本を読んで何かが分かったのかどうか分かりません。
「雪は沈黙なのである。可視的となった沈黙なのだ。」(p.129)
ただ、積雪の日に空気が静まるように感じたり、気持ちが落ち着いていくように感じることに腑が落ちました。
粛々と黙読していくと気持ちが鎮まっていく、そんな本でした。