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乾ルカ『メグル』東京創元社

「その冷感に、自分が触れたのは手ではない、死なのだと高橋は悟った。」(p.20)
死語の世界、誰にとっても未知のものだと思います。死、それ自体も。ただ、冷たくて暗くてとても淋しい場所、そんなモノなのではないかという予感はあります。もしも死がそのようなモノだったとして、それを垣間見てしまった者にとって生はどのように感じられるのでしょうか。
『メグル』はある大学の奨学掛を中心に描かれる5つのお話が収録された短編集です。各話数の主人公はそれぞれ異なります。ただ共通なのは、奨学掛の女性職員に紹介されたアルバイトを行うということ。その派遣先で起こる奇妙な出来事が描かれていきます。
死への距離感は人それぞれだと思います。とても近いものにそれを感じた人、経験した人にとって人生は暖かかったりカラフルに見えたりするのかもしれません。そして、凪いだ心で全てを受け止めることができるようになるのかもしれない。
「自分が死ぬなんて、ずっと遠いことだと思ってたのに」(p.239)
諦めや悟りとはちょっと違うのかもしれない。向こう側を「知っている」からこそ分かること。
時はめぐる。人の縁もめぐる。張り巡らされ織り込まれた人生の中でしなやかに生きていく、そんな時間が流れている本でした。
「良かった。元気ならいいの。よろしく伝えておいてね」(p.241)