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金成隆一『ルポMOOC革命』岩波書店

「ムークが世界中で注目を集めているのは、高品質なのに無料だからだ。」(p.ix)
ムークとはMassive Open Online Courses'の頭文字をつなげた(MOOC)ものだそうです。オンラインで大学の講義が提供されるだけではなく、課題の提出や試験が課され修了すれば修了証が就職に役立つ(こともある)そうです。
この本では、そのムークを提供する側、ムークを使って学ぶ側双方を取材し学びが変化していっている様が描かれています。
無料ということで費用面が、ネット経由ということで物理的距離という障壁が除かれ、学習者にとっては優良な教育(学校や教師)へのアクセシビリティが増すことになっているそうです。
提供側としては無償提供ということでビジネスモデルの構築が課題とのことですが、優秀な人材を欲する企業への仲介のような役割を担うことで収益につなげてはどうか、という考えもあるようです。
読んでまず思ったのは、教育の格差が費用面でも(物理的な距離という)機会面でも是正される側面があるのなら、いいことだな、ということでした。でも、読みつづけるうちに考えたのは、無料で提供されるのが当たり前だとされていると、提供する側の負担が大きくなって途中で止めるといったことになった場合、あるいは提供されるものの質が落ちた場合、利用する側から責められることはないのかな、ということでした。
もう一つ考えていたのは、無償・オンラインということで教育のフラット化が進んでいいことのように聞こえるものの、デジタルデバイドという問題はもうないのだろうか、ということでした。もうずいぶん昔ですが岩波書店から『デジタルデバイドとは何か』という本が出ていて、その記憶の影響でそう考えたのだと思うのですが、オンラインで均される差もネットにつながれなければ恩恵にあずかれない、でも、あの本が出てもう10年以上たっているし、デジタルデバイド自体も知らないだけで随分埋められているのだろうか、だからネットを使えることを前提とした教育が福音のように聞こえるのだろうか、そんなことを考えながら読んでいました。すると、最後の方で金成さんが次のように指摘していました。
「私にはまったく解決の糸口が見えない問題を一つ指摘したい。『パソコンを持っていない、ネットアクセスのない子をどうするか?』という難題だ。」(p.259)
新しい教育の流れで埋まるギャップもあれば、逆に広がる差もあり、その差はより見えにくくなっていくこともあるんじゃないのかな、と思った本でした。