はらだみずき『最近、空を見上げていない』角川文庫

この本を読もうと思ったのは、本にたずさわる人たちを描いた短編集だと聞いて興味を持ったためです。以下のお話が収録されています。「赤いカンナではじまる」「最近、空を見上げていない」「美しい丘」「最後の夏休み」。
登場する主要人物は2名です。ある書店の副店長である野際さんと出版社営業の作本さん。「赤いカンナ~」は野際さんの視点でお話が進み、「最近、空を~」は作本さんの視点で進みます。そのため、お話によって視点が入れ替わるのかなと思って読んでいました。
ところが、最後まで読んでみると結局野際さんの視点は「赤いカンナ~」だけで残り3話はすべて作本さんの視点でした。
「赤いカンナ~」で野際さんの目を通してみる作本さんは鋭いところの感じられないおだやかな印象なのですが、残りのお話で作本さんの目を通していろいろなことを見るとその印象とは全く違った人物であることが分かってきます。
「彼女がいなくなれば、この棚は確実に死ぬ。」(p.29)
野際さんは自分の同僚がつくる棚のことをこういった風に理解できる人です。同じお話の中で飲み屋さんでお酒の並び方に気づいているシーンもあります。そんな人から見た作本さんの姿がご本人の視点から感じられる雰囲気と違っていることがとても印象的です。
野際さんは同僚自身へ棚に彼女が命を吹き込んでいることに気づいていると多分、一度も言ったことはないように思います。でも、彼女がどういった仕事を成し遂げているか理解している。
同じように野際さんから見た作本さんの理解というのはあって、でもそれは言葉にされず秘匿されている、なんとなくそんな感じを受けました。
「やがて一ヶ月も経たないうちに、保科史江の棚は死んだ。だが、そんなことには、だれも気づかないのかもしれない。」(p.29)