加納朋子『スペース』創元推理文庫

この本を読もうと思ったのは加納朋子さんの小説だったためです。10数年前に一度単行本で読んでいるのですが、お話も忘れているだろうということで文庫で再読してみました。いわゆる駒子シリーズ第3作で「スペース」「バック・スペース」が収録されています。
「そうでない理由は、ひたすらその手紙を届けるべき相手にあったのだ。」(p.181)手紙の宛先は本当は誰なのでしょう。相手の住所と名前を記し自分の名前と住所を記しても、自分からその相手に宛てて書いているとは限らない。プロトコルに含まれない空白、スペース部分に手紙の本当の読者が想定されていたとしたら。
「手紙を誰かに書き続けるのは、その相手をうんと好きじゃないとできないことだよね」(p.122)
綴り続けられる手紙が宛先に明記されている人以外への好意を示唆することもある。違うか。その好意に気づいてほしくて、でも宛先として名指すこともできないから、その人への手紙を他人に宛てて書いてしまうのか。
「だいぶん話がそれてしまった。」(p.179)「さて、本当はそんなことはどうでもいいのだった。」(p.224)
それはウソ。話はそれてもいないし、どうでもよくもない。「バック・スペース」の語り手はきっと本当は彼女の事を語りたかったのだ。書きたかったのだ。
「世の中には、こういうことを面白いと感じる人と、何とも思わない人の二種類しかいないわよね。」(p.67)
自分と同じように「こういうことを面白いと感じる」人のことを。そして、語り手が彼女に書いた手紙は彼女に宛てているようで実は、似ている自分へ宛てられているのかもしれない。だとしたら、彼女に対する言葉は自分への言葉でもあるのかもしれません。
「それでは、お元気で。ずっと変わらずにいてね。」(p.262)