穂村弘『現実入門』光文社

この本を読もうと思ったのは、折に触れて穂村弘さんのことをおすすめする同僚がいて気になっていたためです。ほんと、いろんな本のこと知ってますよね、その同僚は。
「ほむらさんは、海外旅行も独り暮らしも結婚もされたことがなくて、人生の経験値が極端に低いという」(p.9)
そんな穂村さんが経験したことがない「現実」を体験してエッセイにしていこう、というのがこの本の内容です。献血してみたり、占い師に見てもらったり、競馬に行ってみたり。
件の同僚曰く、穂村さんの売りはその「ダメ人間」っぷりとのことなのですが、会社勤めをちゃんとされてたり(総務課だし)して、そうでもないんじゃないのかな、と思ってしまいました。なんか、読んでいった一番最後に「なんちゃって」と書かれていたりして、エッセイを装ったフィクションなんとちゃうか、という感じで。
「苦手なことにぶるかるとつい考え過ぎてしまう。」(p.90)
でも、「現実」に対峙したときの「穂村さん」の反応はとても理解できて、読んでいて面白かったです。
「おめでとう、お幸せに。」(p.70)
穂村さんのエッセイが人気があるのは、自分がズレている対象の「現実」を否定していないからかな、と思います。疎外感を感じてしまったり、一人だと感じてしまうようなときに、現実なんて、とイジけるよりは、それを肯定したり、その中でうまく生きている人たちの幸せを願える方がきっとよい。そんな自分とは違う(かもしれない)ものへの肯定は、躊躇させられるものかもしれなくて、そんな迷いの中で穂村さんの文章は後ろから背中をそっと押してくれるようなものかもしれません。ウケるのはそんな理由じゃないのかな、とぼーっと思いました。
「誰かが幸福になったからといって、そのせいで僕が不幸になるわけではない。」(p.63)