朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』集英社

この本を読もうと思ったのは、後輩が会社を辞めてしまったためです。辞めそうにない人だったので、その意外な選択の影響が波紋のように広がって、知っている人が何かを辞めるときに生じる雰囲気というか、周りの人の気持ちに与える影響というか、そういったことを考えてしまって、タイトルがずっと気になっていました。
「本当は、世界はこんなにも広いのに、僕らはこの高校を世界のように感じて過ごしている。」(p.95)
この本の中で、実は桐島くんの視点で描かれているお話はありません。バレー部を辞めることとなった桐島くんが通う学校の生徒たちの何人かが視点となって綴られる連作短編のような本でした。
「高校って、生徒がランク付けされる。」「目立つ人と目立たない人。運動部と文化部。」(p.83)
桐島くんは、運動部で目立つ人。そんな彼が部活を辞めるのは、ランクの上にいる、ということからは外れているのかもしれない。そんな想定を裏切っていく事態は、それを世界全体のように感じている学校が実はもっと大きな世界の部分でしかない、ということへの気づきを誘発するのかもしれません。
「僕らは気づかない振りをするのが得意だ。」(p.89)
気づかない振りをしてごまかしていることを直視させられてしまうのかもしれません。それをさらに気づかない振りをしようとしても、「桐島、部活やめるってよ」という噂が、チクチクとささやくのだと思います。ほんとは、違うんだよ、と。
「自分の周りのことすべてが不安になってきた。今まで当然のように立っていた場所が、よく見たら深い井戸の底だったような。」(p.38)
各話数で視点が変わることによって、ある視点では自分をランクの下の方にいると思っている子が、ほかの子から見たら輝いている、ということが描かれていたりして、救い?がある展開になっていて、桐島くんも他の人たちの輪から見た姿だけじゃなくて、本人が連なっている輪のなかから見たら、また違った子なのかな、と思わせられます。
社会人だって、同じかもしれない。ほんとは広い世界に気づかないフリして、会社を世界のように感じて過ごしているのかもしれません。
「彼女は次のステップに踏み出し、わたしは相変わらず同じ場所にいる。」(若竹七海『悪いうさぎ』文春文庫 p.30)