南悟『生きていくための短歌』岩波ジュニア新書

この本を読もうと思ったのは、昔みたTV番組のことが印象に残っていたためです。それは定時制高校の国語の時間に生徒が短歌を詠んでいくことを取材したドキュメンタリでした。
「遠き日に手放したりし卒業の二文字追って夜学に通う」(尾関浩一 p.64)
その番組で取り上げられていた学校とこの本で書かれていた学校が同じかどうか分からなかったのですが、TV番組のことに触れられている箇所もあって(pp.131-)、多分、同じ学校だと思います。
「短歌を詠むためには、自分の心に向き合わなければなりません。自分の生活に対面し、それから目を離さずに整理していかなければ詠めないのです。」(p.62)
逃げない、という覚悟が「逃げちゃだめだ」という碇シンジくんのパロディに堕ちていきかねないほど情報や言葉があふれているなかで、それでも逃げずに立ち向かってほしいという想いを相手に伝えるのは難しいように思います。言葉にした瞬間に色あせるような。
多分、短歌を詠んでください、という要求を生徒のみなさんは「自分の心に向き合ってください」、や「生活から目を離さずにいてください」という要求だとは捉えにくいと思います。こうあって欲しい状態があるときに、こうあれ、と言うのではなくて、具体的な行動や作業を指示する。それはリラックスしろ、と言う代わりにガムを噛めと言うのに似ていて、なんとなくいいなと思います。
「心の揺れを詠う」(p.51)
南さんの短歌づくりの項目にはこう入っています。そこで詠まれた心の揺れは、上で書いたような無責任な感想が場違いなものに感じるほど大きいものでした。
「崩れ落ち部屋に埋もれる友人の最後の言葉は『もうねむたいわ』」(木村和美 p.156)
読んだ後に常日頃の自分のことがとても恥ずかしくなる本でした。