ミリヤム・プレスラー『マルカの長い旅』徳間書店

この本を読もうと思ったのも、読書感想文コンクールの課題図書(高校の部)らしいためです。
「もうこれ以上決断しなくていいことにほっとしていた。もう何も考える必要はない。ただ、ほかの人の後ろについていけばいいのだ。」(p.84)
一昨年の『縞模様のパジャマの少年』のように戦争を扱ったお話でした。中心となる人物はマルカとその母ハンナ。ナチスユダヤ狩りから逃れる道中、二人はある事情から分かれてしまいます。以降、逃げ続けるハンナ側と、とどまることとなったマルカ側が交互に記述されていきます。
上に引用したのは、ハンナが感じたことです。ユダヤ人を追い詰める側と逃げる側、その違いは、「どのようにして」、という部分ではなくて、「何が」の違いなのかもしれない。思考停止して、大勢につくという仕組み自体はもしかしたら同じなのかもしれない、と思いました。
この本を読んでいると、追手からの逃走を自分も経験しているような感じがしてきます。
「『ユダヤ人狩り』と『移住』という言葉がほんとうのところどういう意味なのかわからなかった」(p.11)
「本当の意味での不安は持っていなかった。自分は必要な人間だし、仕事が自分を守ってくれる。」(p.12)
自分たちに降りかかる災厄がどういったものか、その最初のうちは気づけないものかもしれません。
孤立したマルカが物乞いをしたり、盗みをはたらいたりするシーンもあります。そういった境遇に陥ることもきっと予期できないのだと思います。
戦争と自然災害では違いがあるのかもしれませんが、この親子に降りかかった不幸や、ユダヤ人に向けられた悪意、描写される街の姿が今TVで目にする多くの事と重なってしまって、そうやって遠くで目にしたり耳にしたりするだけの自分は、きっと本当の意味での不安を持ってはいないし、疎開という言葉に含まれる人間の気持ちを分かってもいないし、ほかの人の後ろについていけばいいのだ、と思って目を背けているのかもしれない。どうしてもそんなことを考えてしまいます。
「『人は、困っている人を見捨てたりしないものだ』。でも、困っている人間が二人いたら、どうすればいい?」(p.182)