伊坂幸太郎『砂漠』実業之日本社

この本を読もうと思ったのは、図書館の棚をぶらぶらしていて目についたためです。
「行け、って思わず心の中で言っていた」(p.52)
大学生たちが過ごした学生時代を季節に分けて描いたお話でした。
「春」の章の中で絶世の美女がさえない男の子がボーリングの練習をしているのをこっそり、でもずっと見守っているシーンがあります。その中で彼女が思ったのが上に引用したことです。
多分、彼女が見ていたことを彼は知らない、というか、多分、彼は誰かが自分を見ているとか見ていないとか、そういうことを気にしていない。
「面白いお友達だね」「堂々としている」(p.62)
彼は西嶋くんというのですが、その西嶋くんは世の中の理不尽について飲み会の席で正論を声高にがなりたてるようなメンドくさそうな人です。
「今、目の前で泣いてる人を救えない人間がね、明日、世界を救えるわけがないんですよ」(p.83)
こういう考えを聞くと「大人」はこんな風に思うかもしれない。
「若者が何かを訴えても、世界は変わらないし、何様のつもりだ、と言いたくもなる」(p.237)
実際に、西嶋くんのような人が周りにいたら、自分も同じように思うかもしれない。でも、
「超能力を否定する人たちっていうのは、超能力以外の別のものも否定してるような気がする」(p.231)
ように、変えられないという現実的な部分と変えたいという想いの部分は分けて考えたいと、どこかで思っているのかもしれない。だから、西嶋くんの主張を煙たいものだと思いながらも、もっと言え、「行け、」と思ってしまうのかもしれません。これは、西嶋くんがボーリングをする姿を見て彼女が「行け、」と思ったのと同じかもしれなくて、そんな風に感じることがよく分かって印象的なシーンだったんだろうな、と思います。
このお話を読んでいると、自分の大学時代を思い出して、実際に「行け、」と思えたかどうかは別にして、そう思えるくらい同級生のことを知ろうとすれば良かったのにな、とちょっとだけ後悔します。きっと、フィクションに負けないくらい変な人が山ほどいたと思う。
「目の前で、子供が泣いているとしますよね。銃で誰かに撃たれそうだとしますよね。その時に、正義とは何だろう、とか考えててどうするんですか?助けちゃえばいいんですよ」(p.205)
そうか、この指針を彼女に対して適用したから「冬」の展開になるのか。