緑川ゆき『夏目友人帳』11巻 白泉社

夏目友人帳』というマンガの11巻目を読みました。
「あいつらは気付いていただろうか 目もあわせたこともないはずの相手の名を 自分達が どれほど大事そうな声で呼んでいたかを」
登場人物の祖父の名を妖怪たちが呼んでいました。祖父は妖怪たちを見たい、会いたいと願っていました。できなかったけれど。でも、彼の妖怪へと向かう想いはちゃんと届いて受け容れられていました。
はっきりと言葉にすることはなくても、名を呼ぶ頻度や声の調子にその想いが表れてしまうことはあります。
「見えなくて良かったんだよ」
夏目くんはその祖父に対してこんな風に思っています。でも、祖父の方も妖怪たちから慕われていたことに気付けるのは、夏目くんが「見る」ことができるからで、「見る」ことがいいことなのかどうなのかは一概に言えないような気がします。
この巻の中では、夏目くんの里帰りのお話の方が印象的でした。かつてあった実父・実母との幸せな時間、それがもう手の届かないものならば、忘れてしまおう。もう誰も住んでいない彼の実家が売りに出されることになります。
このエピソードを私は彼を預かっているおばさんの目線で読んでしまって哀しい感じがしました。辛いことが含まれているにしても、離してはいけない大事なことがある。でも、それを離してはいけないと強いることもできない。彼を見送る彼女の姿、目、ほほえみに何とも言えない想いを感じます。
大事なものは一緒にいるうちに大事にしなくてはいけない、と伊東四朗さんがドラマの中で言っていました。
行こうと思えばいつでも行ける実家が行こうと思っても行けなくなるのは、会おうと思えばいつでも会える人がどこを探しても会えなくなることに似ている気がします。
そうなる前にちゃんと区切りをつける。最終回のような雰囲気も感じましたが、とてもいいお話でした。