高田郁『八朔の雪』ハルキ文庫

この本を読もうと思ったのは、和田はつ子さんの本と並べられているのをみて興味をもったためです。

「遠い。何と遠い。永遠にたどり着けないのではないか。」(p.172)

この本の方がしっくりくる感じがしました。それは、主人公の料理との向き合い方が分かりやすいからかもしれません。

今、日曜日に東山さん主演で医療ドラマが放映されていますが、それを毎回見ていて思うことがあります。もしも自分の仕事で同じ職場でこれほどかけ離れた技量を持つ人が仮にいたとして、自分だったら、自分もそうなりたいと思うのかな、ということです。羨ましさなどは、自分との距離がほどほどだから生じる、と聞いたことがあります。初めから自分とは別世界のことだと思っていれば、比べる気持ちも生じない、ということでした。

主人公の少女は料理をしています。有名店の料理を食べて思ったのが上に引用した「遠い。」ということでした。自分が進んでいる道の究めたい先が遥か遠くだと感じたときに、それでも進むのだと思えるような強い心持が自分にはあるのかな、と考えてしまいます。

「本当に美味しいものは食べさえすれば、わかってもらえるはず。」(p.154)

でも、自分が理想とするものが、他のものによって評価されないこともある。主人公のお店は有名店の攻勢にあい、客数を減らします。売上も減少します。そんなとき、減っている理由が味が悪いからなのか、別の理由からなのか見極める冷静さは必要だと思います。味が悪いからだと理由を混同してしまいがちだけれども。

「手を抜かない料理、変わらない優しい茶碗蒸しを用意して待っていよう」(p.217)

そんな状態でもこんな風に思える主人公だから安心して読んでいられるんだろうな、と思います。

最後に特に印象的だった言葉。

「旺盛な食欲はそれだけで傍にいるものを幸福にする。」(p.26)