D.ペパーズ、M.ロジャーズ『ONE to ONEマーケティング』ダイヤモンド社

この本を読もうと思ったのは、『星野リゾートの教科書』の中で取り上げられていて興味を持ったためです。

「『視聴者』や『顔のない大衆』という考え方をやめて、顧客を一人一人の人間として考えていくべきなのである。」(p.150)

「ある個人の行動の予測に最も有効なのは、その人の過去の行動なのである。」(p.38)

読んでいて頭をよぎったのが、どうしてもAmazonのことでした。過去の購入履歴から、おすすめ商品を提案したりするシステムは、この本で書かれていたことが実現されているように感じます。ただ、

「電報はファクスの出現によってあえない最期を遂げた。」(p.3)

この本で言われているワン・トゥ・ワンは、技術の進歩が前提となっているのですが、そこで念頭に置かれている技術がFAXで(原著の刊行は1993年のようで、インターネットが普及する前のようです)、具体的な事例はピンときませんでした。

言われている具体的なお話しは分からなくても、そこから導き出される将来像はその通りになってきているように感じられて、星新一さんの『声の網』を読んだときに感じた空恐ろしさを思い出しました。例えば以下のような感じ。

「すべての書店が自前の印刷機をもち、店のコンピュータからデジタル変換された情報を得て、その場で一冊の本を製作できるようになったらどうなるだろう。」(p.210)

グーグルのサービスのデモンストレーションで、そんな風にして本が作られている動画を見たことがあります。

「特権階級は『そこにいない者』たち、つまり、どこにいても自由に働くことのできる情報関係の労働者である。」(p.269)

佐々木俊尚さんがおっしゃっていたと思うのですが、ノマドなワーカーとか、クラウドソーシングのことを連想させる記述です。

星さんの『声の網』が現在から遠い過去に書かれていたように、この本で書かれていることを現在にあてはめるとうなずける箇所がたくさんあって、書かれていることを現実にしたAmazonのような企業が成功しているのを考えると、将来から振り返ったときに遠い過去となる現在にも、そんな風に未来を見通したような本ってあるのかな、と考えたりしました。

でも、今現在ワン・トゥ・ワンで成功しているようなところが、「顧客を一人一人の人間として」考えるという哲学を背後に持っているかどうかは引っかかります。一人の人間として見ているのではなくて、情報の集積として一人の人間を捉えているとしたら、それは「視聴者」や「顔のない大衆」というラベルのかわりに「一人の人間」を当てはめただけで、捉え方は変わっていないのかもしれないな、と思います。