柳原和子『がん患者学Ⅲ』中公文庫

この本を読もうと思ったのは、Ⅰ、Ⅱと読んだためです。Ⅰ、Ⅱは元々一冊だった単行本を文庫化にあたって分冊したものだったのですが、Ⅲは『がん生還者たち:病から生まれ出づるもの』という本を文庫化したものだそうです。

「個別とは、『絶対』もない、ということでもある。すべてを自分で判断しなければいけない。」(p.17)

Ⅰ・Ⅱ・Ⅲと読んできて、クレシェンドのようなものを感じました。客観的な記述がだんだんと主観的な記述へと割合を変えていくような。そういった変化は、柳原さん自身が他のがん患者さんを個別の問題だとして突き放したりするのではなく、付き合っていくなかでも変えられない事実というか、動かせないものだという風に捉えているようにうかがわせます。

「医療が、病気だから、という理由で患者を一律の方程式で、その記憶やこころを無視して画一的にすべてを支配する、もしくは患者が医療にすべてを委ね、支配されるのはおかしい。」(p.15)

「三時間、四時間を待合室で過ごすのはざらなんです」(p.69)

「知られていない事実だが、アメリカではがん患者となって職を失う人たちが意外に多い。」(p.223)

「アメリカでは乳がん患者の離婚率が四割、という証言があります。」(p.265)

そういったスタンスが説得的に伝わってくる本だから、他人について読んでいるにも関わらず、自分だったら、と私的な選択を迫られるときの予行のように読んでしまいます。病気を知られると職を失うかもしれない。病気になると諦めなくてはいけないかもしれない。

「私はすでに家、キャリア、仕事、保険、お金、未来のすべてを失いました。」(p.175)

癒し的な意味で感動を与えてくれる本ではないと思います。でも、がんが与えてくれたものというか、病気になることで知ったことやできるようになったことなど、「明るい」部分に触れている部分もあって、一人で病気に向き合うことへの不安にそっと寄り添ってくれる本のように思います。

「死に直面する人には巨大な、計り知れない力がある」「危篤状態にある人があなたに『愛している』と言ったとき、その言葉を忘れる人はいないでしょう。」(p.359)