読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『ディア・ドクター』

映画の感想

『ディア・ドクター』という映画を観てきました。この映画を観ようと思ったのは、原作・脚本・監督の西川美和さんが『トップランナー』に出演していたのを観たためです。『トップランナー』の中で、『ゆれる』で注目を浴びた後、自分は立派な監督だと思っていないのに、周りがそういう風な眼で見てくることからほんとはそうじゃないのにそう奉られることのようなものが気になってきた、という感じのことをおっしゃっていて、それがきっかけで医師免許を持たない医者が患者さんたちから慕われるという今回のお話しになったということもおっしゃっていて興味を持ったためです。

「あの先生なら母をどんな風に死なせるんだろう」

主演は笑福亭鶴瓶さんなのですが、患者さんのひとりを演じていた八千草薫さんが個人的にとても印象的でした。八千草さんが鶴瓶さんに自分と一緒に嘘をついてください、という感じのことを言うシーンがあるのですが、そこでの背中での演技?とか、手を振るときの淡い感じとか、最後の最後でニコっとした笑顔とか、とても印象的な表情がたくさんあって、そんな表情を見ているとなんか哀しくなったりして困りました。

鶴瓶さんを村に医師として引っぱってきた村長さんが警察にこんなことをいうシーンがあります。「バチがあたるかもしれないけれど、神様仏様よりもあの先生の方がよっぽど頼りになる」。お話の最初の方で何気なく言われているセリフなんですが、お話しの後半で結局、騙していたのは医者だけじゃなくて、まわりのあんたたちもニセモノを本物とするのに加担していたんじゃないのか、と刑事に責められる人がいることを考えると、ホンモノ/ニセモノという区別と、人が信じていることの区別への影響をこのセリフが端的に言い表していたんじゃないのかなあ、と思います。

鶴瓶さん演じる医師はヤブ医者でしたが、自分に実力がないことで患者さんに致命的な害が及ぶことは嫌なようで、ヤブだから患者じゃなくて、単純に友人に対するもののようかもしれないのですが、患者さんにとって何がいいのかを一所懸命考えてやっているのを見て、それがニセモノとして全否定されてしまうだろうことを考えると複雑な気持ちがしました。

患者さんを死なせてしまっては、医学としては敗北なのかもしれないのですが、病気に対抗していたとしても、人間は必ず死ぬことを考えれば、納得のいかない死に方をさせたなら、つまりうまく死なせることができないのなら、それは失敗なのかもしれないな、と思いました。もっとも、それは医者の仕事じゃない、と怒られるのかもしれないけれど。

あと、香川照之さん演じる製薬会社の営業さんが刑事から鶴瓶さんの動機を金か名誉か、といった風に聞かれる場面があるのですが、そこでの香川さんの「反論」がとても良かったです。

いい映画だったな、と思います。