村松秀『論文捏造』中公新書ラクレ

この本を読もうと思ったのは、前に論文の捏造を扱ったドキュメントを見たことがあって、そのときに、捏造を実際にやっていたのは、研究室の助手の人だったのですが、研究室の教授が自分で追試するなどではなく、助手に不正をやったのかどうか聞いているだけで、データが不正かどうかの判断を自分自身でできないような雰囲気でそれがとても意外で、印象的で、論文の捏造に興味があったためです。

この本は『史上空前の論文捏造』と題されたNHKの特集番組を書籍化したものだそうで、冒頭に述べた私が見たのは『クローズアップ現代』のある回で、東大の事例だったのですが、この本で綴られていたのは、アメリカのベル研究所に所属していた科学者の事例でした。

「科学界以外の人間から見ると、そもそも論文の中身についてすべてわかっていない業者が混じっていること自体、とても不可思議に見える。論文全体に責任を持つ、ということが著者の意味合いかと思いきや、科学界の常識はそうではないのだ。」(p305)この捏造事件をめぐる問題の視点のひとつとして、共同研究者の責任についても言及されるのですが、科学界とは別の、企業の不祥事が発覚したときに、その責任の所在について報道の中で、社員が悪いと言ったりする人が出てくることを連想してしまいました。高度に専門分化してしまっているので、共同研究に携わる各人が自分の受け持つ部分にしか責任を持たないし、他の人のやっていることを実は理解していないというのは、論文や研究以外の社会の中でもあることかもしれなくて、何か事件が起こったりしたときの犯人(原因)探しのことを考えてしまいました。

あと、著者である村松さんはNHKの人のようなのですが、こういった捏造事件を取材しながら、自分が所属している団体でのヤラセや不祥事について類推的に考えたりしなかったのかなあ、とぼんやり考えながら読んでいたのですが、エピローグで言及されていました。「その意味でこの問題は、私たちNHKの人間にとっても見過ごすことのできないものである。」(p324)

私も、自分の所属していることになっている会社だったら、と当てはめて考えてしまって、この本は科学における捏造を扱ったものだけれど、身近なことに当てはめて考えてしまうものなのかもしれません。って、それだったら、単純に確証バイアスって怖いね、で済んでしまうものなのかもしれませんが。