藤沢周平『蝉しぐれ』文春文庫

この本を読もうと思ったのは、2年くらい前に映画になったと思うのですが、そのとき一青窈さんが歌っていた主題歌がいい感じだったためです。

落ち着いて考えると、時代小説ってあんまり読んでいないのですが、昔、宮尾登美子さんの『一弦の琴』という本を読んだことくらいしか記憶がないですが、落ち着いた感じでゆったり読めて良かったです。

読んで思ったのは、江戸時代ってどういう社会機構でできていたんだろうということです。たしかに、初等・中等教育を通じて「日本史」として幕府の組織図とか、普請とか、俸禄とか習いましたが、そういった「社会」というものにしばられて生きている当時の人々のリアリティとして感じることって全然なくて、こういった小説を読むと、考証的にどーとか全然分からないのですが、それでも見えない壁のように厳然と存在するものを窮屈とか感じていたのかなと想像してしまって、現在の日本で社会問題として話題になるようなことも、後の時代に設定として使われるのかなとか、そのとき、今を生きていて苦しいとか思っている人たちのリアリティってどーなっているんだろうとか考えてしまいました。

物語の終盤で、死んでいった人たちのことを「藩のためだ」とする人がいて、主人公はそれに異を唱えるのですが、他の部分で殿様が今年はいるとか、江戸にいるとか参勤交代をうかがわせる記述とかあって、当時生活していた人って、自分の存在している一番外側に何を想定していんだろうと、そんなことも思いました。

印象的だったのは、主人公の父の遺骸を家に持ち帰るシーンです。まちのなかを通るので、人に見られてしまうのですが、サドナウという人が『病院で作られる死』の中で、病院では死を隠蔽するために死体の搬送口、そこまでの経路が例えば外来の人の目につかないようにされているというようなことを書かれていたような気がしますが、中には、外来受付のまん前を通って出口まで行かなくてはいけない病院とかあって、自分が死体として運ばれるとしたら、人目につく経路は避けて欲しいなあとそんなことを考えて印象に残りました。

面白い本でした。