北森鴻『花の下にて春死なむ』講談社文庫

この本を読もうと思ったのは、題名に取られている和歌に興味があったからです。この本を持っているところを同僚に見られてしまったのですが、その時に「いい買い物をしましたね」と言われました。あんたは中島誠之助か?と思ってしまいましたが、面白い本なのかなあと思って読みました。

居酒屋がメインの舞台の短編連作ミステリでした。印象に残ったのは、「家族写真」です。その中で現物の寄付によってなりたつ駅にある本棚が出てきます。読みたい本を通りがかりの人が借りていって、返すというものでした。その本の中に、特定の誰かに連絡することを意図して家族写真が入っている設定でした。昔、図書館でアルバイトをしていたときですが、閉館後に返却された本を配架していたときに、本の中にはさまれた手紙を見つけたことがあります。その時に、借りられることの滅多になさそうな本をポストのように使って連絡をとりあう人たちが世の中にはいるのかなあと思ったことを思い出しました。

一話目の視点である女性が最終話で30歳になっていて、プロポーズを受けるかどうかとか考えていました。もう何年かすれば30になっちゃうのですが、やっぱりプレッシャーとか感じてしまうのかなと思って少し憂鬱でした。

あと、「人は、そう簡単に死ねるわけじゃありません。少しでも可能性の高いところに身を置いて、死を願うことが精一杯というのが、人として自然ではありませんか」(p136)というセリフが気になりました。