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広島市現代美術館(監修)『路上と観察をめぐる表現史:考現学の「現在」』フィルムアート社

「世の中には、こういうことを面白いと感じる人と、何とも思わない人の二種類しかいないわよね。」(加納朋子『スペース』創元推理文庫刊 p.67) 路上観察というものに興味をひかれる理由をずっと考えています。結論から言えば、路上の何でもないものを「何…

ピーター・ヘスラー『北京の胡同』白水社

「アナタ、この世に、そんな女が居るとは信じられないって思いましたね、今」(木皿泉『すいか』1 河出文庫 p.52) 胡同(ふーとん)が中国の路地のようなものだと聞いた時から、この本の題名に対する印象は固まっていました。開発によって失われていく「古…

G・K・チェスタトン『ブラウン神父の不信』創元推理文庫

「どちらか一つになさい。無法なら無法をどこまでも、遵法なら遵法を徹底して公平に貫くのが、物事の筋道というものではありませんか」(「天の矢」p.76) 以前、『パンプキンシザーズ』というマンガを読んでいて次のようなセリフがありました。 「悪を討つ…

瀬戸内寂聴『場所』新潮社

ピーター・メンデルサンドの『本を読むときに何が起きているのか』という本の中に確か、読んでいて遊歩道を歩いているように感じる本があるという主旨の箇所があります。 先日、荒川洋治さんの『忘れられる過去』を読んでいて、瀬戸内寂聴さんの『場所』につ…

森山高至『非常識な建築業界:「どや建築」という病』光文社新書

「どや顔を見せられた誰もが心のうちに芽生える嫌悪感は、ある種の建物を見ても同じように発動します。」(p.70) 著者の問題意識のひとつは建築を「芸術・アート」とカテゴリし、自己表現の手段としようとする建築家の姿勢にあります。 「『建築に詳しい人…

ヴォルフガング・シヴェルブシュ『図書館炎上』法政大学出版局

本を燃やす、というと頭をよぎるイメージが2つあります。 ひとつは映画『デイ・アフター・トゥモロー』の終盤で急激な温度低下を凌ぐために本を暖炉にくべつづけたシーン。もうひとつはアニメ『R.O.D.THE TV』の「華氏四五一」という話数で展開された作戦で…

岩永亮太郎『パンプキン・シザーズ』20巻 講談社

「まっ先に―『人を殺せばそれを悔やむハズだ』って考える人間なんだなって」 この巻の冒頭、殺人兵器としてつくられた人物とその傷を修復する医師との会話シーンがあります。人殺しが悩んでいるのを見た時に、その悔いの理由はいくつかあるのに医師がそれを…

篠原ウミハル『図書館の主』12巻 芳文社

「私が学校に来るのは月水金の3日間でね 時間も10時から4時までだから・・・朝は会えないの」(p.12) 児童書専門の私設図書館タチアオイ図書館を舞台に描かれる司書と本のお話の12巻。この巻は学校図書館がメインとなっています。 従来からいた司書教諭とは…

加藤元浩『Q.E.D.iff』3巻 講談社

この巻には「三人の刺客」「自転車泥棒」が収録されています。 「三人の刺客」の扉は『チャーリーズ・エンジェル』をイメージしているのかな?それはさておき、「自転車泥棒」は探偵役の少年がかつてかけられた嫌疑に関するお話。子どもの頃に少しだけ滞在し…

加藤元浩『C.M.B.』31巻 講談社

この巻には「地獄穴」「ゴーストカー」「動き回る死体」「第27回探偵推理会議」が収録されています。 「地獄穴」は土砂すべりが元で露わになった洞穴をめぐるお話。地獄穴出現と時を同じくして村からは失踪者が出ます。TVの取材も入り、村おこしの一環として…

沢木耕太郎『テロルの決算』文春文庫

「右翼の行動がさらに過激になり、しかもその過激な行動が頻発するようになったのは、明らかに岸内閣成立以後のことである。」(p.39) 『テロルの決算』は浅沼稲次郎と山口二矢という2人の人物を中心に描かれるノンフィクションです。浅沼は野党の政治家、…

戸板康二『グリーン車の子供』創元推理文庫

問題というほど問題でもないのですが気にかかっていることがあります。アニメや洋画の吹き替えで少年役の声を女性の声優が演じることはあっても、逆に少女役の声優が男性であることは滅多にない。そこに少年・少女に対するイメージが表れているような気がす…

G・K・チェスタトン『ブラウン神父の知恵』創元推理文庫

本作は『ブラウン神父の童心』に続くシリーズ2作目で以下のお話が収録されています。「グラス氏の失踪」「泥棒天国」「ヒルシュ博士の決闘」「通路の人影」「器械のあやまち」「シーザーの顔」「紫の鬘」「ペンドラゴン一族の滅亡」「銅鑼の神」「クレイ大佐…

アガサ・クリスティー『謎のクィン氏』ハヤカワ文庫

都筑道夫さんの『黄色い部屋はいかに改装されたか?』を読んでいてアガサ・クリスティが創作したクィン氏について触れている箇所がありました。記憶によるので正確な語句ではないかもしれませんが、そこで都筑さんはクィン氏のことを「この世のものではない…

アイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』1 創元推理文庫

「私の理想とするところはエルキュール・ポワロと彼の小さな灰色の脳細胞なのだ。」(p.9) アイザック・アシモフという名前にはSF作家というイメージしか持っていませんでした。『黒後家蜘蛛の会』のことを知ったのがどこでだったのか覚えていません。「黒…

G・K・チェスタトン『ブラウン神父の童心』創元推理文庫

「狂気と絶望だけなら罪はない。世のなかには、それよりもっとひどいことがあるんだよ」(「折れた剣」p.308) 先日、都筑道夫さんの『黄色い部屋はいかに改装されたか?増補版』(フリースタイル刊)を読みました。その中に本格推理作家は本格推理が好きな…

イアン・ハッキング『記憶を書きかえる』早川書房

「幼少時のトラウマと多重人格の結びつきは、百年の間にゆっくりと姿を現したのではない。それは、1970年代に、ほとんど何の前触れもなく発生したのだ。」(p.108) この本を読みながら、最初の内は社会学の構築主義というアプローチのことを連想していまし…

岸政彦『断片的なものの社会学』朝日出版社

「非常に多数の証言者を得たとき、調査報告は”私”という一人称を捨ててもかまわない」(『井田真木子著作撰集』里山社刊 p.482) この本がいう「断片的なもの」がどういったものなのか、冒頭部分で挙げられている例がとても分かりやすいです。著者がある調査…

東村アキコ『かくかくしかじか』2巻 集英社

「ごくたまに/ほんの一本自分が納得いく線が見つかる瞬間がある」(p.86) また『漫勉』の話ですが、藤田和日郎さんだったか、さいとうたかをさんの回だったかで下書きの線には責任がないという主旨の話がされていました。 「真っ白なキャンパスに筆をのせた…

東村アキコ『かくかくしかじか』1巻 集英社

先日、浦沢直樹さんの『漫勉』というTV番組を観ました。番組の構成は、予め対象となる漫画家の執筆過程を複数の定点カメラで撮影し、その映像を浦沢さんと撮られた漫画家が一緒に見ながら対談する、というものです。再放送でしたが、ちょうど東村アキコさん…

井田真木子『井田真木子著作撰集』里山社

「ノンフィクション・ライターに与えられる賛辞は、ただ他者の内側に深く入り込みながら、自分と他者も区別し続けられたということにつきる。それ以上でもそれ以下でもない。」(「かくしてバンドは鳴りやまず」p.436) 井田真木子さんによるノンフィクショ…

松原始『カラスの補習授業』雷鳥社

この本は同著者による『カラスの教科書』の続編です。『カラスの教科書』が目にとまったのは、書店店頭でみたその表紙のせいでした。とぼけた感じのカラスのイラストが描かれています。このカラスのキャラクター?には、 twitterのアカウント↑もあります。 …

多和田葉子『かかとを失くして/三人関係/文字移植』講談社文芸文庫

この本は多和田葉子さんの短編集で「かかをと失くして」「三人関係」「文字移植」の三篇が収録されています。 「第一、痛いのは、爪のくっついている指の〈肉〉であって、〈爪〉そのものではない。」(「三人関係」p.89) 以前、『言葉と歩く日記』を読んだ…

林真理子『本を読む女』集英社文庫

題名を見て頭に浮かんだのは自分の母親のことでした。 「一生、小説や詩の本を読んで暮していけたらいいなあと思う」 「だったら結婚すればいいじゃんけ」(p.95) この部分は、結婚相手の経済力に頼って有閑階級(のような)になればお金の心配もせずに本だ…

岩坂未佳(編著)『Beyond the Display』BNN新社

池田亮司さんの『spectra』という作品が36頁から載っています。ロンドンの地上から空へ向けて一筋の光線が伸びています。 その光を見て私は2つのものを連想していました。ひとつはナチス(シュペーア)の光の柱。もうひとつは9/11で崩れ去ったWTCの跡地、グ…

加藤元浩『Q.E.D.iff』2巻 講談社

この巻には「素っ裸の王様」「殺人のかたち」が収録されています。 「形っていうのは当たり前のように目に見えているけど/想像できないものを隠してるんです」(「殺人のかたち」) 自分の言葉、と言ったときにそれを「自分の」と言うために必要な条件は何で…

加藤元浩『C.M.B.』30巻 講談社

この巻には「ドリームキャッチャー」「宗谷君の失踪」「JOKER」「ピーター氏の遺産」が収録されています。 突然失踪してしまった大学の友人を探す「宗谷君の失踪」。彼はなぜいなくなってしまったのか。 「お前が納得せんだけぜよ」(「宗谷君の失踪」) 中…

たなかのか『すみっこの空さん』8巻 マッグガーデン

この巻収録の「サンタクロース」という話数にアドヴェント・カレンダーが登場します。アドヴェント・カレンダーと言えば『ソフィーの世界』で有名なヨースタイン・ゴルデルに『アドヴェント・カレンダー』という小説があります。『ソフィーの世界』→哲学→『…

荻野富士夫『思想検事』岩波新書

精神的な苦痛と肉体的な苦痛。どちらもしんどいけれど、想像される痛みの種類が違う。どちらの方が耐えがたいか、とついつい考えてしまいます。それは、手術をうけるときに感じる恐怖に似ているかもしれない。例えば開腹手術と開頭手術。開頭の方が自分の中…

阿古真理『小林カツ代と栗原はるみ』新潮新書

「共働きの女性たちが夕食の食材を求めたのは、都心にある百貨店の地下の食品売り場だった。地元に帰る時間にスーパーは閉まっているからだ。」(p.58) 料理研究家、料理番組と言えば私は土井勝さんを思い出します。子どもの頃、病室でよくTVを観ていました…

小林泰三『海を見る人』ハヤカワ文庫

「優しくいることが間違っていても/こうしていたいの」(南壽あさ子「フランネル」) 『海を見る人』はSFの短編集で以下のお話が収録されています。「時計の中のレンズ」「独裁者の掟」「天獄と地国」「キャッシュ」「母と子と渦を旋る冒険」「海を見る人」…

飯塚訓『墜落現場 遺された人たち』講談社+α文庫

「日本国中が、テレビの前に釘づけになり、新聞の大見出しに息をのんだ。」(p.167) 御巣鷹山の日航機墜落について、私の記憶の中にあるのは、ヘリコプターに収容される生存者を捉えたテレビの画像でした。そしてそれは過去の事故を振り返るものを見て記憶…

飯塚訓『墜落遺体:御巣鷹山の日航機123便』講談社+α文庫

著者は元警察官。1985年8月12日に発生した日航機の墜落事故では、遺体の身元確認班の責任者として現場を取り仕切りました。その際の様子を記した手記がこの本です。 「すなわち、五二〇人の身体が、二〇六五体となって検屍されたということである。」(p.66)…

ルシアン・ネイハム『シャドー81』ハヤカワ文庫

「こんごは、きみも管制塔もおれを"シャドー81"と呼ぶように。」(p.209) ジャンボ・ジェット機PGA81便はハイジャックされます。犯人は機内にいません。正体不明の最新軍用機に背後をとられ要求を呑まなければ撃墜すると脅されます。 物語は犯人がハイジャ…

朽木祥『オン・ザ・ライン』小学館文庫

「この人はねえ、詩を読むみたいに絵を読むんだ」(p.91) 先日、辻原登さんの『東京大学で世界文学を学ぶ』という本を読みました。その中でヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』について次のようなことが書かれていました。語り手である「わたし」には前任…

青柳碧人『浜村渚の計算ノート6さつめ:パピルスよ、永遠に』講談社文庫

「理系の教育が国家に必要だったことをよく知っていたのだ。今の日本政府と真逆だな」(p.119) このシリーズを読んでいると、この本での理系の扱いを文系に置き換えた状況をどうしても想像してしまいます。 この巻収録の「シスター・メルセンヌの記憶」では…

伊与原新『蝶が舞ったら、謎のち晴れ:気象予報士・蝶子の推理』新潮文庫nex

print 春(printemps)も途中までなら印刷。何を印刷するのでしょう。 「わたし、春なんて嫌い」(p.83) 春はみんなが待ち望む季節。長い冬が終わって色んなものが躍動を取り戻す。文字通り「spring」、びょんびょんと活き活きしてくる。そんな季節が嫌いな…

飯島洋一『「らしい」建築批判』青土社

「『らしい』建築とは異なって、『らしくない』建築は素朴で地味である。だからそれがいかに誠実につくられたとしても、建築専門雑誌に取り上げられることはほとんどない。」(p.221) この本が出版されたとき、題名を見て「『らしい』建築」を批判する本で…

施川ユウキ『バーナード嬢曰く。』2巻 一迅社

「まだ一冊も/読んでないよ」(p.9) 本を読まずにお手軽に読書家を気どって発言してみたい、読書家に周りから見られたい女、バーナード嬢(本名:町田さわ子)。『読んでいない本について堂々と語る方法』(ピエール・バイヤール、筑摩書房)を地で行くかの…

大倉崇裕『福家警部補の追及』東京創元社

「ご心配には及びません。寝ていませんので」(p.112) 私は福家警部補を人間だと思っていません。小説の作中人物なので、人間ではないのは当然なのですが、そういう意味合いではありません。 上遠野浩平さんに「ブギーポップ」シリーズというライトノベル(…

大崎梢『忘れ物が届きます』光文社

「小さなころには当たり前のように 守られた幸せを 今取り返しにゆくの」(Salley『あたしをみつけて』) ある女の子の話をします。 幼稚園の頃、その子はとても足が遅かった。組で2チームに分かれて行われるリレー競争では、その子のいる方がいつも負けてい…

宇田智子『本屋になりたい』ちくまプリマー新書

宇田智子さんのことを初めて知ったのは『那覇の市場で古本屋ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』(ボーダーインク刊)でのことでした。書影の写真が『かもめ食堂』など飯島奈美さんのご飯が出てくる雰囲気を醸し出していてとても気になりました。読んでみる…

イエラ・レップマン『子どもの本は世界の架け橋』こぐま社

最近読んだ本の中でこの本を知りました。最初は歌代幸子さんの『一冊の本をあなたに』(現代企画室刊)。IBBY(国際児童図書評議会)設立に尽力した女性の自伝ということでこの本について触れられていました。 「あなたが本を送ってくれるよう頼もうとしてい…

加藤元浩『Q.E.D.iff』1巻 講談社

『Q.E.D.』は50巻までで完結し、掲載紙の変更などと相まって『Q.E.D.iff』(iffはif and only if=⇔、同値を意味する)と改題後の最初の巻です。 この巻には「iff」「量子力学の年に」が収録されています。 「量子力学の年に」は長い年月をへてある新興宗教…

加藤元浩『C.M.B.』29巻 講談社

この巻には「プラクルアン」「被害者、加害者、目撃者」「椿屋敷」「自白」が収録されています。 一番身につまされたのは「プラクルアン」でした。 亡くなった大富豪の遺物の中から出てきたタイのお守りプラクルアン。遺族たちはそれを貴重品だと思いますが…

港千尋『文字の母たち』インスクリプト

「写真の技術が母型システムに取って代わったのは、言うまでもなくはるかに効率がいいからであるが、そのときに失われたのは母型だけでなく、字を彫刻する身体感覚、そしてやり直しがきかないという物質を相手にした『真剣勝負』であろう。」(p.84) 活字の…

梅森元弘『死者のホンネ:英国墓碑銘の世界』主婦の友社

「自作エピタフの数はきわめて少ないが、自分で自分のエピタフを書く習慣は、多少作詩をかじる道楽人の間ではかなり一般的に見られたものである。」(p.345) 末盛千枝子さんの本を読んでいて梅森さんの『エピタフ』(荒竹出版刊)という本のことを知りまし…

加納朋子『トオリヌケキンシ』文藝春秋

トオリヌケキンシとシンニュウキンシは違う。入っていくことは禁じられていない。 この本には以下のお話が収録されています。「トオリヌケ キンシ」「平穏で平凡で、幸運な人生」「空蝉」「フー・アー・ユー?」「座敷童と兎と亀と」「この出口の無い、閉ざ…

いせひでこ『大きな木のような人』講談社

「それでも花は咲きません 私は何の種でしょう」(池田綾子「種」) 木のような人、とはどんな人でしょう。 大学生だった頃、講義の空き時間を校舎内の廊下に設けられた休憩所のような場所でソファに座ってぼんやりガラスの外を見ていたことがありました。そ…

詩:長田弘、絵:いせひでこ『最初の質問』講談社

「今日、あなたは空を見上げましたか。」 これがこの絵本に最初に書かれている質問です。以下、いせひでこさんの淡い絵を背景に、時には協働し、時には言葉の方が背景に退きながら質問が続いていきます。 「問いと答えと、いまあなたにとって必要なのはどっ…