本の感想

G・K・チェスタトン『ブラウン神父の知恵』創元推理文庫

本作は『ブラウン神父の童心』に続くシリーズ2作目で以下のお話が収録されています。「グラス氏の失踪」「泥棒天国」「ヒルシュ博士の決闘」「通路の人影」「器械のあやまち」「シーザーの顔」「紫の鬘」「ペンドラゴン一族の滅亡」「銅鑼の神」「クレイ大佐…

アガサ・クリスティー『謎のクィン氏』ハヤカワ文庫

都筑道夫さんの『黄色い部屋はいかに改装されたか?』を読んでいてアガサ・クリスティが創作したクィン氏について触れている箇所がありました。記憶によるので正確な語句ではないかもしれませんが、そこで都筑さんはクィン氏のことを「この世のものではない…

アイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』1 創元推理文庫

「私の理想とするところはエルキュール・ポワロと彼の小さな灰色の脳細胞なのだ。」(p.9) アイザック・アシモフという名前にはSF作家というイメージしか持っていませんでした。『黒後家蜘蛛の会』のことを知ったのがどこでだったのか覚えていません。「黒…

G・K・チェスタトン『ブラウン神父の童心』創元推理文庫

「狂気と絶望だけなら罪はない。世のなかには、それよりもっとひどいことがあるんだよ」(「折れた剣」p.308) 先日、都筑道夫さんの『黄色い部屋はいかに改装されたか?増補版』(フリースタイル刊)を読みました。その中に本格推理作家は本格推理が好きな…

イアン・ハッキング『記憶を書きかえる』早川書房

「幼少時のトラウマと多重人格の結びつきは、百年の間にゆっくりと姿を現したのではない。それは、1970年代に、ほとんど何の前触れもなく発生したのだ。」(p.108) この本を読みながら、最初の内は社会学の構築主義というアプローチのことを連想していまし…

岸政彦『断片的なものの社会学』朝日出版社

「非常に多数の証言者を得たとき、調査報告は”私”という一人称を捨ててもかまわない」(『井田真木子著作撰集』里山社刊 p.482) この本がいう「断片的なもの」がどういったものなのか、冒頭部分で挙げられている例がとても分かりやすいです。著者がある調査…

井田真木子『井田真木子著作撰集』里山社

「ノンフィクション・ライターに与えられる賛辞は、ただ他者の内側に深く入り込みながら、自分と他者も区別し続けられたということにつきる。それ以上でもそれ以下でもない。」(「かくしてバンドは鳴りやまず」p.436) 井田真木子さんによるノンフィクショ…

松原始『カラスの補習授業』雷鳥社

この本は同著者による『カラスの教科書』の続編です。『カラスの教科書』が目にとまったのは、書店店頭でみたその表紙のせいでした。とぼけた感じのカラスのイラストが描かれています。このカラスのキャラクター?には、 twitterのアカウント↑もあります。 …

多和田葉子『かかとを失くして/三人関係/文字移植』講談社文芸文庫

この本は多和田葉子さんの短編集で「かかをと失くして」「三人関係」「文字移植」の三篇が収録されています。 「第一、痛いのは、爪のくっついている指の〈肉〉であって、〈爪〉そのものではない。」(「三人関係」p.89) 以前、『言葉と歩く日記』を読んだ…

林真理子『本を読む女』集英社文庫

題名を見て頭に浮かんだのは自分の母親のことでした。 「一生、小説や詩の本を読んで暮していけたらいいなあと思う」 「だったら結婚すればいいじゃんけ」(p.95) この部分は、結婚相手の経済力に頼って有閑階級(のような)になればお金の心配もせずに本だ…

岩坂未佳(編著)『Beyond the Display』BNN新社

池田亮司さんの『spectra』という作品が36頁から載っています。ロンドンの地上から空へ向けて一筋の光線が伸びています。 その光を見て私は2つのものを連想していました。ひとつはナチス(シュペーア)の光の柱。もうひとつは9/11で崩れ去ったWTCの跡地、グ…

荻野富士夫『思想検事』岩波新書

精神的な苦痛と肉体的な苦痛。どちらもしんどいけれど、想像される痛みの種類が違う。どちらの方が耐えがたいか、とついつい考えてしまいます。それは、手術をうけるときに感じる恐怖に似ているかもしれない。例えば開腹手術と開頭手術。開頭の方が自分の中…

阿古真理『小林カツ代と栗原はるみ』新潮新書

「共働きの女性たちが夕食の食材を求めたのは、都心にある百貨店の地下の食品売り場だった。地元に帰る時間にスーパーは閉まっているからだ。」(p.58) 料理研究家、料理番組と言えば私は土井勝さんを思い出します。子どもの頃、病室でよくTVを観ていました…

小林泰三『海を見る人』ハヤカワ文庫

「優しくいることが間違っていても/こうしていたいの」(南壽あさ子「フランネル」) 『海を見る人』はSFの短編集で以下のお話が収録されています。「時計の中のレンズ」「独裁者の掟」「天獄と地国」「キャッシュ」「母と子と渦を旋る冒険」「海を見る人」…

飯塚訓『墜落現場 遺された人たち』講談社+α文庫

「日本国中が、テレビの前に釘づけになり、新聞の大見出しに息をのんだ。」(p.167) 御巣鷹山の日航機墜落について、私の記憶の中にあるのは、ヘリコプターに収容される生存者を捉えたテレビの画像でした。そしてそれは過去の事故を振り返るものを見て記憶…

飯塚訓『墜落遺体:御巣鷹山の日航機123便』講談社+α文庫

著者は元警察官。1985年8月12日に発生した日航機の墜落事故では、遺体の身元確認班の責任者として現場を取り仕切りました。その際の様子を記した手記がこの本です。 「すなわち、五二〇人の身体が、二〇六五体となって検屍されたということである。」(p.66)…

ルシアン・ネイハム『シャドー81』ハヤカワ文庫

「こんごは、きみも管制塔もおれを"シャドー81"と呼ぶように。」(p.209) ジャンボ・ジェット機PGA81便はハイジャックされます。犯人は機内にいません。正体不明の最新軍用機に背後をとられ要求を呑まなければ撃墜すると脅されます。 物語は犯人がハイジャ…

朽木祥『オン・ザ・ライン』小学館文庫

「この人はねえ、詩を読むみたいに絵を読むんだ」(p.91) 先日、辻原登さんの『東京大学で世界文学を学ぶ』という本を読みました。その中でヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』について次のようなことが書かれていました。語り手である「わたし」には前任…

青柳碧人『浜村渚の計算ノート6さつめ:パピルスよ、永遠に』講談社文庫

「理系の教育が国家に必要だったことをよく知っていたのだ。今の日本政府と真逆だな」(p.119) このシリーズを読んでいると、この本での理系の扱いを文系に置き換えた状況をどうしても想像してしまいます。 この巻収録の「シスター・メルセンヌの記憶」では…

伊与原新『蝶が舞ったら、謎のち晴れ:気象予報士・蝶子の推理』新潮文庫nex

print 春(printemps)も途中までなら印刷。何を印刷するのでしょう。 「わたし、春なんて嫌い」(p.83) 春はみんなが待ち望む季節。長い冬が終わって色んなものが躍動を取り戻す。文字通り「spring」、びょんびょんと活き活きしてくる。そんな季節が嫌いな…

飯島洋一『「らしい」建築批判』青土社

「『らしい』建築とは異なって、『らしくない』建築は素朴で地味である。だからそれがいかに誠実につくられたとしても、建築専門雑誌に取り上げられることはほとんどない。」(p.221) この本が出版されたとき、題名を見て「『らしい』建築」を批判する本で…

大倉崇裕『福家警部補の追及』東京創元社

「ご心配には及びません。寝ていませんので」(p.112) 私は福家警部補を人間だと思っていません。小説の作中人物なので、人間ではないのは当然なのですが、そういう意味合いではありません。 上遠野浩平さんに「ブギーポップ」シリーズというライトノベル(…

大崎梢『忘れ物が届きます』光文社

「小さなころには当たり前のように 守られた幸せを 今取り返しにゆくの」(Salley『あたしをみつけて』) ある女の子の話をします。 幼稚園の頃、その子はとても足が遅かった。組で2チームに分かれて行われるリレー競争では、その子のいる方がいつも負けてい…

宇田智子『本屋になりたい』ちくまプリマー新書

宇田智子さんのことを初めて知ったのは『那覇の市場で古本屋ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』(ボーダーインク刊)でのことでした。書影の写真が『かもめ食堂』など飯島奈美さんのご飯が出てくる雰囲気を醸し出していてとても気になりました。読んでみる…

イエラ・レップマン『子どもの本は世界の架け橋』こぐま社

最近読んだ本の中でこの本を知りました。最初は歌代幸子さんの『一冊の本をあなたに』(現代企画室刊)。IBBY(国際児童図書評議会)設立に尽力した女性の自伝ということでこの本について触れられていました。 「あなたが本を送ってくれるよう頼もうとしてい…

港千尋『文字の母たち』インスクリプト

「写真の技術が母型システムに取って代わったのは、言うまでもなくはるかに効率がいいからであるが、そのときに失われたのは母型だけでなく、字を彫刻する身体感覚、そしてやり直しがきかないという物質を相手にした『真剣勝負』であろう。」(p.84) 活字の…

梅森元弘『死者のホンネ:英国墓碑銘の世界』主婦の友社

「自作エピタフの数はきわめて少ないが、自分で自分のエピタフを書く習慣は、多少作詩をかじる道楽人の間ではかなり一般的に見られたものである。」(p.345) 末盛千枝子さんの本を読んでいて梅森さんの『エピタフ』(荒竹出版刊)という本のことを知りまし…

加納朋子『トオリヌケキンシ』文藝春秋

トオリヌケキンシとシンニュウキンシは違う。入っていくことは禁じられていない。 この本には以下のお話が収録されています。「トオリヌケ キンシ」「平穏で平凡で、幸運な人生」「空蝉」「フー・アー・ユー?」「座敷童と兎と亀と」「この出口の無い、閉ざ…

いせひでこ『大きな木のような人』講談社

「それでも花は咲きません 私は何の種でしょう」(池田綾子「種」) 木のような人、とはどんな人でしょう。 大学生だった頃、講義の空き時間を校舎内の廊下に設けられた休憩所のような場所でソファに座ってぼんやりガラスの外を見ていたことがありました。そ…

詩:長田弘、絵:いせひでこ『最初の質問』講談社

「今日、あなたは空を見上げましたか。」 これがこの絵本に最初に書かれている質問です。以下、いせひでこさんの淡い絵を背景に、時には協働し、時には言葉の方が背景に退きながら質問が続いていきます。 「問いと答えと、いまあなたにとって必要なのはどっ…

Shelley,Mary. Frankenstein. Dover.

When I was a college student a professor reffered to Frankenstein in a lecture. That was an introduction to English Literature or something like that. Until then I thought Frankenstein was the name of monster a scientist made. I can't reme…

皆川博子『倒立する塔の殺人』PHP文芸文庫

題名にある「倒立する」という言葉を見て思い浮かべたのは、水面に映るタワーの姿でした。タワーを背にしてみると正立しているように見えるけれど、離れた場所から例えば穏やかな水面の向こうに塔が立っていて、そのすがたが映っているのを見ると、水に映っ…

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』ハヤカワ文庫

「全体の命運を左右するかのような大問題が、その瞬間その瞬間には、個人のささやかな行動の上にのっかっているようだった。」(「衝突」p.367) この本は短編集で「たったひとつの冴えたやりかた」「グッドナイト、スイートハーツ」「衝突」が収録されてい…

ヒュー・マイルズ『アルジャジーラ 報道の戦争』光文社

私がアルジャジーラという名前をはじめて知ったのは、9.11同時多発テロの頃だったと思います。そのときは、なにか話題になっている中東のテレビ局、という印象でした。先日、池内恵さんの『イスラーム世界の論じ方』を読んだ折、アルジャジーラという単語が…

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』群像社

「一度ならずわたしは警告された(ことに男性の作家たちから)。『女たちは、あんたにいろんな作り話をするぜ。好きなように作り事を話して聞かせるよ』だが、あんなことを空想でつくりだせるものだろうか?」(p.20) ジョアナ・ラスという人に『テクスチャ…

シェリ・フィンク『手術の前に死んでくれたら:ボスニア戦争病院36カ月の記録』アスペクト

先日、ジョン・ハーシーの『ヒロシマ』という本を読みました。その中で原爆が投下された直後、広島にいたある医師の行動を記している部分があります。現在は平成27年。終戦70年を迎えます。そんな平時でも医師不足が聞かれ、「立ち去り型サボタージュ」とい…

岩城けい『さようなら、オレンジ』筑摩書房

「ここには見たことのない光景が広がっていた。人という人は穏やかな日常を送り、耳慣れない言葉を話していた。サリマたちは政府の難民受け入れに従った。」(p.5) このお話はサリマの視点で始まります。夫と2人の子どもを抱え異国の地で新しい生活を送ろう…

アントワーヌ・ヴィトキーヌ『ヒトラー『わが闘争』がたどった数奇な運命』河出書房新社

「刊行当時、『わが闘争』に対して際立った反発が見られなかったのは、内容への理解が足らなかったことよりも、国民が本当の意味での政治意識をもっていなかったことが原因である。」(p.277) 著者であるアントワーヌ・ヴィトキーヌはジャーナリスト。この…

Walker,Stephen. Shockwave:Countdown to Hiroshima. Harper Perennial.

"This is the greatest thing in history"(p.294) Harry Truman, then the president of the United States said like above when he was informed of the success of dropping the first atomic bomb to Hiroshima. Now many people, especially Japanese p…

東直子『とりつくしま』ちくま文庫

「そうです、私はとりつくしま係」(p.14) この世を去った人たちにとりつくしま係は持ちかけます。無生物に憑りつくことで現世に戻りませんか。大切な人を残して心配、片想いだった相手の側にもう少しいてみたい、様々な思いからモノに憑りついた人の視点で…

石黒浩『どうすれば「人」を創れるか』新潮文庫

石黒浩さんはロボット工学者。自身にうりふたつのロボットを作りました。経年劣化と石黒さん自身が年齢を重ねたことでロボットと本人の姿形に乖離が生じてしまいます。そこで選択肢は二つ。ロボットを直す(ロボットを本人に近づける)か本人を「直す」か。 …

ジョン・スウィーニー『ハリウッド・スターはなぜこの宗教にはまるのか』亜紀書房

「『ほら、あいつキレてる、ばーか』と友だちがコメントした。 『あれ、うちのおやじなんだ』とサムは答えた。」(p.276) BBCの番組である『パノラマ』のリポーターであったジョン・スウィーニーはサイエントロジーという団体を取材中に取材対象に対してキ…

東直子『いつか来た町』PHP研究所

「どんなに文明が発達しても、どんなに高い建物を空へ空へとのばしても、空に蓋をすることはできない。」(p.63) だから地下へもぐって空を閉ざそうとするのでしょうか。 『いつか来た町』は東直子さんがかつて訪ねた町について書かれたエッセイ集です。街…

駒沢敏器『アメリカのパイを買って帰ろう:沖縄 58号線の向こうへ』日本経済新聞出版社

『語るに足る、ささやかな人生』で駒沢さんはアメリカの「スモールタウン」を自動車でたどりました。彼の視点で描写されるスモールタウンの姿は味わいのあるものでした。『アメリカのパイを買って帰ろう』の副題には沖縄の道路の名前が入っています。同じよ…

北村薫『八月の六日間』角川書店

主人公は出版社に勤める編集者、女性、アラフォー、独身、です。同棲していた相手と「離れた」あとの落ち込んでいた時期に後輩の同僚から誘われます。 「明日、山、行きませんか」(p.13) 以来、山にはまった彼女。折に触れて登った山それぞれについて書か…

モフセン・マフマルバフ『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』現代企画室

著者であるモフセン・マフマルバフさんはイランの映画監督でアフガニスタンに関する『カンダハール』というドキュメンタリ映画などを撮られた方だそうです。 「私は作家だ。だから、ただ書くだけだ。」「この文章が何かの影響を持つとは信じてはいないにもか…

本多孝好『MOMENT』集英社文庫

「私は、変われるかな」 「大丈夫でしょう」と僕は頷いた。「まだ生きてますから」(「MOMENT」p.324) 谷村有美さんに「愛する勇気」という歌があります。その中でこう歌われています。「大切なのは 変わらないこと 変わって行けること」。 もう20数年前で…

若竹七海『さよならの手口』文春文庫

葉村晶という女性探偵が登場するシリーズの最新作、といっても前回の『悪いうさぎ』から13年ぶりということで葉村晶も不惑を越えていました。 「無責任を感じよくご呈示する社会。ときどき、暴れたくなる。」(p.58) 『依頼人は死んだ』を読んだ時は、個別…

永幡嘉之『巨大津波は生態系をどう変えたか:生きものたちの東日本大震災』講談社ブルーバックス

「自然環境の『豊かさ』が回復したかどうかは、単に生き物が増えたかどうかではなく、歴史時間のなかで形成された地域独自の生態系にどれだけ戻ったかという尺度で判断されるべきものだ。」(p.116) 題名にはっきりと「巨大津波は」と書かれているのに、な…

稲泉連『復興の書店』小学館文庫

「あのとき、本は多くの人たちに必要とされた。書店には人が詰めかけ、様々な本が売れていった。彼らの話を聞くと、その光景はまるで幻だったように感じられる。」(「文庫版加筆 それからの日々」p.248) 2011年3月11日に発生した東日本大震災・福島原発事…